研究実績の概要 |
神経変性疾患などの中枢病態では、タンパク質性の脳内老廃物が、脳内に過剰に蓄積することで神経障害をもたらす。近年、脳内老廃物は脳実質内から脳脊髄液 (CSF) へ恒常的に排泄されるとするGlymphatic systemの概念が提唱されている。そこで、CSF中へ移行した老廃物が脳外へ排泄される機構を明らかにすることは、老廃物の脳内蓄積を回避する方法を確立するうえで重要である。そこで本研究では、パーキンソン病において脳内に蓄積するα-synuclein (α-syn) のCSF内動態に着目し、「α-synはCSFから血液くも膜関門(Blood-Arachnoid Barrier, BAB)の輸送系を介して消失する」という仮説を実証することを目的とした。CSFからの消失過程におけるBABの寄与を解析するため、α-synとbulk flowマーカーとしてFITC-inulinの混合液を、大槽内投与法でラットに投与後、経時的にCSF中濃度を測定した。ラット軟髄膜から調製した細胞膜画分を用いて、輸送体のタンパク質発現量を、標的絶対定量プロテオミクス (QTAP) を用いて定量した。FITC-Inulinは20 minまでに、CSF中からの消失が見られなかった一方で、α-synは、大槽内投与後のCSF消失クリアランスは4.0 μL/minであった。さらに阻害剤として、LDL Receptor-Related Protein(LRP1)の基質となる活性型α2-macroglobulin共存下での、CSF中α-syn濃度を測定した結果、α-synのCSF濃度が有意に上昇した。QTAP解析から、ラット脳軟髄膜におけるLRP1のタンパク質発現量が算出された。以上の結果から、α-synは輸送系が関与する排出機構でCSFから消失し、少なくとも一部にBABのLRP1が関与していることが示唆された。
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