研究課題/領域番号 |
16K08376
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
山崎 泰広 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (80415330)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ABCトランスポーター / 胆石症 / 細胞内トラフィキング |
研究実績の概要 |
食の欧米化による過栄養状態は、生体のコレステロール恒常性を乱すことにより様々な疾患を引き起こす。特にコレステロールの体外への主要な排泄経路である肝臓から胆管への胆汁排泄、およびそれを担う脂質トランスポーターの発現・機能変化は、これら疾患発症のメカニズムを解明するうえで極めて重要である。本研究は、栄養状態の変化や病的環境が誘発するトランスポーターのトラフィキング異常、およびそれに付随する胆汁分泌異常機構を解明するのが目的である。 我々はこれまでに、胆石症モデルマウスでは胆汁中の胆汁酸濃度が低下しているにも関わらず胆汁酸トランスポーター・BSEPのmRNAは減少しないことを見出している。そこで2017年度はBSEPの毛細胆管膜への局在化異常がBSEPの機能低下を引き起こす可能性について検討した。雄性C57BL/6マウスを胆石症誘発食で7日間飼育し、肝臓におけるBSEPの発現分布を免疫組織染色法により確認したところ、毛細胆管膜へのBSEPの局在は阻害されていた。この現象をより詳細に解析するため、BSEP-YFP発現遺伝子をハイドロダイナミック法によりマウス肝臓にin vivo導入し、遺伝子導入24時間後における遺伝子産物の局在を解析したところ、胆石症誘発食群ではBSEP-YFPのシグナルのピークが毛細胆管膜から細胞質側に移動していた。BSEPのトラフィッキングにPKCαシグナル系が関与することが過去に報告されているため、胆石症誘発食摂餌群の肝臓におけるPKCαの活性化状態について調べた。その結果、普通食摂餌群と比較して肝毛細胆管膜におけるPKCαの発現量、およびリン酸化の増加が確認された。以上の結果から、胆石症モデルマウスではBSEPが毛細胆管膜から細胞質側へ移動し、胆汁酸の分泌が減少することによりコレステロール結石の発生が促進され、さらにPKCαが関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017年度はコレステロール胆石症発症に関与する脂質トランスポーターを同定するために、胆石症誘発食を用いた胆石症モデルマウスを作成し、胆石のもととなるコレステロール結晶の有無と胆汁脂質成分、および脂質トランスポーターの発現変動について解析した。その結果、結晶が発生し始める摂餌7日目に胆汁酸トランスポーター・BSEPの毛細胆管膜への局在が阻害されること、逆にコレステロールやリン脂質を分泌するABCG5/8、およびABCB4の局在は亢進する傾向があることを免疫染色法により見出した。さらにYFP (yellow fluorescent protein) 融合BSEPを胆石症誘発食摂餌7日目のマウス肝臓に発現させることにより、この現象を定量的に解析することに成功した。以上の結果は、肝毛細胆管膜における脂質トランスポーターのトラフィキング異常がコレステロール胆石発生に深く関与することを示唆している。さらにBSEPの毛細胆管膜局在化異常に、在来型プロテインキナーゼC (cPKC)の関与を示唆するデータを得ることができた。 ABCG5/ABCG8の膜局在化に関与する会合分子を探索するために、マウス肝臓に発現させたABCG5-YFP/ABCG8-YFPを抗YFP抗体を用いて免疫沈降で単離したが、十分な量の沈降物を得ることができなかった。そこでABCG5-YFP/ABCG8-YFPを過剰発現する細胞株からABCG5/ABCG8に相互作用する分子を探索することにした。現在、肝細胞株であるHepG2の過剰発現系を確立しているところであり、その前段階としてHEK293T細胞に一過性に発現させることに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、cPKCの活性化による胆汁酸トランスポーター・BSEPの毛細胆管膜局在化異常は、胆汁中の胆汁酸濃度を低下させコレステロール析出を促すことにより、胆石発生に繋がることが示唆されたので、2018年度はcPKCの阻害がトランスポーターの毛細胆管へのトラフィキングを改善させ、胆石発生を阻止できるかについて検討する。具体的には、cPKC阻害剤であるGo6976を胆石症モデルマウスに腹腔内投与し、胆嚢におけるコレステロール結石の発生が抑制されるか調べる。また同じマウスから胆嚢に貯まった胆汁を採取し脂質成分比を解析するとともに、密度勾配遠心法により単離した毛細胆管膜画分におけるBSEPの発現量がcPKC阻害剤投与により回復しているか調べる。さらにcPKC阻害剤を投与した胆石症モデルマウスの胆嚢にカニューレを挿入し、胆汁酸分泌能が回復しているかについて調べる。 また、過栄養状態により誘導されるABCG5/ABCG8の膜局在化に関与する会合分子の同定を引き続き行う。マウス肝臓に発現させた蛍光トランスポーターの共免疫沈降が成功しなかったので、2018年度はABCG5-YFP/ABCG8-YFPを過剰発現させた肝細胞株(HepG2)から膜画分を調製し、抗YFP抗体でそれぞれ免疫沈降する。沈降物を質量分析計で解析し、ABCG5/ABCG8と相互作用する分子を同定する。候補となる分子が同定されたなら、FLAG融合タンパク質発現遺伝子を構築し、蛍光トランスポーターとマウス肝臓に共発現させることで、トランスポーターのトラフィキングに影響を与えるか調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物から採取した胆汁の脂質成分を測定するキットを一セット分節約できたため、次年度分に回した。
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