研究実績の概要 |
これまで、プロドラッグについて、酵素の性質を踏まえて設計した例はあまりなかったので、本研究にいては、アトルバスタチンのカルボン酸部位をエステル化するモデル化合物として設計を試みた。まず始めに直鎖脂肪酸エステルを合成し、基質特異性についてヒト小腸(HIM)および肝(HLM)ミクロソームを用いて調べた。その結果、炭素鎖長に比例してHLMでは活性が低下し、HIMでは活性が上昇する傾向が示された。その他の脂肪族エステルについてはアリルエステルとベンジルエステル, i-プロピルエステルとシクロヘキシルエステルの結果から、立体的にかさ高いエステルにおいて加水分解活性が低いことが判った。また, t-ブチルエステルtBuはほとんど加水分解されなかった.一方, ラクトン体においても, 本条件下では加水分解がほとんどされなかった.この構造からparaoxonase (PON) により代謝活性化を受ける可能性が考えられた。さらに脂肪族エステルの電子密度の違いについて比較を行ったところ、エチルエステルEtからTFEエステルTFE, i-プロピルエステルiPrからHFPエステルHFPへと, ハロゲンを有している化合物の方は, HLM, HIM存在下共に, 加水分解活性が上昇していることが判明した。すなわち, 化学的に脱離能の高い置換基は, 酵素的にも活性が高い結果になると考えられ、プロドラッグを設計する場合、構造依存的だけでなく, 電子密度の違いも考慮する必要性が示された。この他、データは示さないが芳香族エステルに関しても電子密度の違いを調べたところ、電子密度の低下に伴い代謝活性可能が上昇することなどが明らかと成った。現在、50近くのプロドラッグを合成し、構造活性相関についてCES1AおよびCES2Aの発現系を用いて調べているが、上述した傾向は保持している。
|