研究課題/領域番号 |
16K08379
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大江 知之 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 准教授 (30624283)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 代謝活性化 / 反応性代謝 / ベンズブロマロン / ネビラピン / ジクロフェナク / トラッピング剤 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究を通して、以下の成果を達成した。 1. 平成28年度、広範な反応性代謝物を捕捉できる蛍光標識トラッピング剤を分子設計・合成を行った。平成29年度は、この新規トラッピング剤の有効性及び問題点等を評価したところ、ハードな反応性代謝物は効率的に捕捉できたが、ソフトな反応性代謝物については従来法に比べやや劣ることが示された。そこで、計算化学的手法を用い新しい蛍光標識トラッピング剤をデザインしその合成に成功した。 2. 平成28年度、高尿酸血症治療薬(尿酸トランスポーター阻害薬)ベンズブロマロンの新規代謝活性化機構に基づき、それを回避した改良型化合物を6種類合成した。平成29年度はその改良型ベンズブロマロン誘導体の毒性および薬効である尿酸トランスポーター阻害活性を評価した。その結果、全ての誘導体の細胞毒性やミトコンドリア毒性は軽減し、尿酸トランスポーター阻害活性についてもベンズブロマロンよりは若干弱いものの、ほぼ活性を維持した。 3. 抗HIV薬(逆転写酵素阻害薬)ネビラピンの代謝活性化を回避するために、代謝活性化に関与しているアミド周辺及びA環部分を変換した化合物を複数合成し、そのいくつかは代謝活性化の指標である不可逆的CYP阻害活性化が軽減することが示された。しかし、薬効である逆転写酵素阻害活性についてはいずれも減弱傾向が見られたので、薬効向上にフォーカスした分子設計・合成に着手した。 4. 平成29年度より、新しく抗炎症薬のジクロフェナクの代謝活性化を抑えた改良型医薬品の創製を目指した研究を開始した。まず、ジクロフェナクの主な代謝活性化機構であるカルボキシ基のグルクロン酸抱合を抑えるために、カルボキシ基周辺にメチル基を導入した2種類の類縁体を合成した。期待通りグルクロン酸抱合代謝は激減したが、薬効であるシクロオキシゲナーゼ阻害活性は減弱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
反応性代謝物検出のための新規蛍光標識トラッピング剤を複数合成しその評価を行っている。未だ実用性のあるトラッピング剤は完成してはいないが、トラッピング機能改善のための方向性もすでに決定しており、複数の合成候補化合物がデザインされている状態である。 肝毒性を持つ医薬品の改良型創製に向け最も早くから取り組んでいたベンズブロマロンについては、薬効評価も終了し、合成した誘導体の全てで活性が維持されていたことが明らかになった。ベンズブロマロンで見られる強力な細胞毒性も回避しているという結果を併せると、当初の目的である代謝活性化を回避した医薬品の創製に成功したと言える。今後は、in vivoを使った高次評価などを行っていきたい。 ネビラピンについては、薬効であるHIV逆転写阻害活性は減弱する傾向にあり、なかなか良い候補が見つけられない状況ではあるが、合成ルートの確立やアッセイ系の改善など順調に研究は進んでいる。 一方、当初の計画にあったアミオダロンの代わりに、よりインパクトのある抗炎症薬ジクロフェナクの改良型創製に計画をシフトした。新しい知見も見出しており今後の進展に期待が持てる。 以上より、研究の進捗度は総じてほぼ順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
新規に創製した蛍光標識トラッピング剤を用い、様々な骨格を有する医薬品由来の反応性代謝物を捕捉できるかを評価し、必要に応じて改良を加える。すでに、アミノ酸誘導体、スペーサーユニット、蛍光団を並列に繋げる合成法および精製法、そしてそれを評価するためのLC-MSや蛍光検出器などの測定条件も確立しており、様々なトラッピング剤の評価を短期間のうちに達成できる状況にある。 一方、ベンズブロマロン、ネビラピン、ジクロフェナクについては、引き続き代謝活性化を回避した誘導体を種々合成しその代謝活性化や毒性評価、また、薬効評価を行う。代謝活性化評価には従来の方法の他、前述した新規蛍光標識トラッピング剤も併せて用いる。特に、最も進んでいる改良型ベンズブロマロン誘導体については、すでに候補化合物が数種類ある状態なので、1つに絞り込みそれを用いて高次評価を行うとともに、投稿論文や学会発表などの成果報告も積極的に進めたい。 ネビラピンとジクロフェナクの改良型誘導体については、未だ毒性の回避と活性の維持を両立するものが見つかっていないので、現状よりも範囲を広げた構造変換を行う予定である。
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