研究課題/領域番号 |
16K08383
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
小笠原 裕樹 明治薬科大学, 薬学部, 教授 (20231219)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | schizophrenia / carbonyl stress / methylglyoxal / argpyrimidine |
研究実績の概要 |
29年度の研究においては、カルボニルストレス性統合失調症の原因成分である可能性が推定されている、メチルグリオキサール(MG)の測定法を開発し、その実用化のための検討を行なった。MGはグルコースから解糖系あるいはメイラード反応の過程で、非酵素的に生じるα-ジカルボニル化合物である。本研究では、血中や脳内のMG濃度の変化及び蓄積について調べるため、簡便かつ高感度な蛍光ラベル化HPLC法を考案した。本法は、従来の方法に比べ簡便で、精度、再現性も良好であった。健常人血漿に本法を応用したところ、健常人におけるMG濃度は0.024~0.258μM (mean ± SD = 0.098 ± 0.066)の範囲で、これまで報告された値に近似するものであった。今後、本法を用いて、統合失調症患者血漿及びモデルマウス脳の各部位などにおける遊離MGの測定に用いていく予定である。 一方、28年度の研究で、一部の難治性統合失調症患者の赤血球中において、抗アルグピリミジン(ARP)抗体で検出される56kDのタンパク質が見出された。アルグピリミジン はα-ジカルボニル化合物であるMGとタンパク質のアルギニン残基との反応で生成するAGEs構造の1つである。そこで、29年度はその56kDのARP化タンパク質の精製、同定を試みた。患者血球より本タンパク質を精製し、詳細に解析した結果、LC-MS/MS法によりARP化タンパク質がselenium binding protein 1(SBP1)であることが解かった。統合失調症の患者においては、測定した22人中7人においてARP化SBP1の蓄積が認められたが、腎不全の患者赤血球においても有意なARP化SBP1の蓄積が見られたことから、赤血球中ARP化SBP1の蓄積は、統合失調症特異的ではないものの、新たなカルボニルストレス性疾患の指標となることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カルボニルストレスマーカーとなる可能性のある、アルグピリミジン化タンパク質の同定に成功した。その蓄積は、統合失調症患者の約30%において観察された。また、カルボニルストレス性統合失調症の原因物質の1つであると予想される代謝物であるMGの分析法を確立したことにより、臨床検体の測定をはじめるに至った。
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今後の研究の推進方策 |
確立したMG測定法を、統合失調症、他の精神疾患及び健常人血漿に応用し、その値を比較する。カルボニルストレス性統合失調症モデルマウスを用いて、MGとの反応により生成するAGEs化タンパク質を同定し、その発症メカニズムを探る。血漿のメタボロミクス解析を行なうことで、統合失調症特異的な変化を示す低分子化合物を見出す。新たな候補化合物が見出された場合、その特異的な分析法を開発し、より多くの臨床検体に応用することで診断マーカーとなる可能性について評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗体、カラムなど作成依頼中のものがあり、次年度に購入することとした。 作成依頼のものも含めて消耗品として使用する。
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