研究課題/領域番号 |
16K08390
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
児玉 進 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (20621460)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 薬物動態 / シグナル伝達 / サイトカイン / 核内受容体 / 遺伝子発現調節 |
研究実績の概要 |
本年度は、初年度にヒト肝癌由来HepaRG細胞を用いて炎症性サイトカインに応答したmRNA発現変動を指標にして選定した薬物動態関連因子(薬物代謝酵素、薬物トランスポーター)と薬物応答性転写因子について、それらの肝細胞特異的な「構成的」発現の解析系としてヒト肝癌由来HepG2細胞の有用性を検討した。これまでにHepG2細胞におけるそれらのサイトカイン応答性はHepaRG細胞と比較して限定的であることを見出していた。そこで、再現性と抑制強度に基づき解析モデルとして薬物代謝酵素と薬物応答性転写因子をそれぞれ2遺伝子ずつ選定した。他方、ヒト肝癌由来Huh7細胞は、HepG2細胞と比べて、選定した解析モデルの「構成的」なmRNA発現レベルが著しく低く、解析系には適さないことを確認した。 また、初年度に引き続き、サイトカイン刺激下、薬物動態関連因子の発現抑制に作用する細胞内シグナル経路を明らかにすることを目的とし、HepG2細胞において、各種細胞内シグナルの特異的阻害薬の併用による影響を検討した。とりわけ、IL-6刺激下に活性化される主要な細胞内シグナル経路の各種特異的阻害薬を併用処理した場合、IL-6による解析モデルのmRNA発現抑制は何れも軽減されず、阻害薬によってはそれ自身の処理が解析モデルのmRNA発現の著しい上昇を引き起こす場合が認められた。並行して、解析モデル遺伝子のプロモーター領域のクローニングを進め、レポータープラスミドを構築した。HepG2細胞を宿主として、分与により取得したレポータープラスミドを含め、3つの解析モデル遺伝子のプロモーター領域のレポーターアッセイを実施した。その結果、新たに単離したプロモーター領域がプロモーター活性を有すること、また、2つの解析モデル遺伝子のプロモーター領域はサイトカイン応答性を有することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度に引き続き、本年度は炎症応答時薬物動態関連因子の発現変動の調節メカニズムを体系的に明らかにすることを目的に、インビトロ解析モデルの検討と選定に取り組んだ。HepaRG細胞とHepG2細胞での解析結果を基に、肝細胞特異的な「構成的」発現の解析モデルとして薬物代謝酵素と薬物応答性転写因子を合わせて4遺伝子選定した。これまでに、ヒトゲノムDNAから解析モデル遺伝子のプロモーター領域をクローニングし、次いで、HepG2細胞を宿主に用いてそれぞれプロモーター領域についてサイトカイン処理を組み合わせたレポーター解析を進めている。また、一部の解析モデル遺伝子に関しては、転写開始点から十数kb上流のDNA領域を含むレポータープラスミドを分与・取得してそれらを基に解析目的に適当なレポータープラスミドの構築を進めている。今後は、これらを基盤として、解析モデル遺伝子のプロモーター領域の解析を重点的に進めて行く。また、炎症応答時における薬物動態関連因子の「誘導的」発現の変動及び肝-腸管間での調節メカニズムの特異性についても解析系の検討を進めている。 本年度は、所属研究機関の変更に伴い、新しい研究実施環境のセットアップに或る程度の期間を要したことから申請時の実施計画に多少変更点が生じた。しかし、今後の解析実施項目は明確化されていることから本研究課題の最終的な目的に向けて大きな支障はなく研究は進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には、交付申請書に記載した計画に従って研究を進める。まず、本年度の研究成果を基に、HepG2細胞を解析系の軸に据え、それぞれ選定した解析モデル遺伝子に適当な解析系の構築と解析諸条件の最適化を行い、炎症性サイトカインに応答した薬物動態関連因子の発現変動の調節メカニズムの解析を進める。今年度の結果を受け、①選定した解析モデル遺伝子のプロモーター領域のレポーターアッセイを実施し、サイトカイン応答作用を有するDNA配列の同定を試みる、②ChIP解析を含む適当な分子生物学的手法を用い、サイトカイン応答性DNA配列に結合する転写調節因子を同定する、③複数の解析モデル遺伝子のプロモーター間におけるサイトカイン応答性の異同を明らかにする。さらに、同定した転写調節因子の調節メカニズムを基に炎症性サイトカインに応答した薬物動態関連因子の転写調節メカニズムを明らかにする。また、研究計画にあるサイトカインに応答した翻訳後修飾を介する薬物応答性転写因子の機能調節に関する解析についても、タンパク質分解や細胞内局在、他の転写調節因子との相互作用などの検討を試みる。また、これまで腸管の解析系として大腸癌由来LS180細胞を検討に用いてきた。引き続き、これまでに選定した解析モデル遺伝子を用いた解析系の構築と解析諸条件の最適化を進め、得られた解析結果についてHepG2細胞と比較して肝-腸管間での特異性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 本年度は、所属研究機関の変更に伴って必要解析機器の設置を含む研究実施環境の整備に或る程度の期間を要したと共に、使用する細胞培養機器の変更によりこれまでに取得した解析データの再現性の検証を優先して実施した。従って、本年度は当初の使用予定額と実支出額との間に差異が生じた。 (使用計画) 平成30年度は、引き続いて実施環境の整備に取り組むと共に、本研究課題の目的達成に向けて、研究計画及び推進方策に沿いながら、平成30年度請求額を含め研究費を研究遂行に使用する予定である。その内訳としては、細胞実験関連費、遺伝子組換え実験関連試薬、定量的逆転写PCR関連試薬、レポーターアッセイ関連試薬の購入を中心に、また、得られた本研究の成果を学会及び学術雑誌において発表する為に使用する予定である。
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