研究課題/領域番号 |
16K08390
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
児玉 進 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (20621460)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 薬物動態 / 炎症性サイトカイン / シグナル伝達 / 遺伝子発現調節 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度までに解析モデルとして選定した4遺伝子(薬物代謝酵素と薬物応答性転写因子について、各々2つ)のプロモーター領域についての解析、①レポーター解析による炎症性サイトカインIL-6刺激に対する応答性に必要とされるプロモーター領域の絞り込み、②結合モチーフ探索ツール及び既報論文からの情報を利用したプロモーター領域に作用する候補転写因子の絞り込み、を進めた。ヒト肝癌由来HepG2細胞を用いたレポーター解析の結果に基づき、4つのモデル遺伝子のうち、3つについて、再現性を確保しながらIL-6応答性に必要とされるプロモーター領域をそれぞれ約300 bp、約400 bp及び約300 bpまで絞り込んだ。そこで、3つのモデル遺伝子の絞り込んだプロモーター領域に共通して存在する転写因子の予測結合配列と既知のIL-6応答性の報告を指標にして、モデル遺伝子のIL-6応答性に関与し得る候補転写因子を5つ選定した。HepG2細胞において、各々モデル遺伝子と候補転写因子のIL-6刺激下での経時的な発現変動を比較したところ、モデル遺伝子はそれぞれ刺激後2時間と6時間にmRNA発現レベルの有意な減弱が観察される2つのグループに分かれること、一方、既報の通り、5つの候補因子のうち、3つは刺激後2時間でmRNA発現レベルが有意に上昇すること、を確認した。並行して、5つの候補因子のうち、4つの発現プラスミドを新たに作製、または分与により取得し、それらを用いてモデル遺伝子のIL-6応答性領域を含む短いプロモーター領域のレポーター解析を実施した。その結果、4つの候補因子うち、2つはそれぞれ異なるモデル遺伝子のプロモーター領域の転写活性を抑制することを見出した。他方、IL-1b及びTNFa刺激下でのレポーター解析の実施条件(内部標準用レポータープラスミドの選定など)の最適化を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
炎症応答時の薬物動態関連因子の発現抑制メカニズムの体系的な理解を目指し、前年度までの成果に基づき、本年度はHepG2細胞を解析系の軸に据え、選定したモデル遺伝子のプロモーター領域の炎症性サイトカインIL-6に対する応答性に関わる領域の絞り込みと、その領域に作用してIL-6に応答した転写抑制を介在する転写因子の検討を進めた。これまでに、3つのモデル遺伝子についてIL-6応答性に必要とされるプロモータ-領域をそれぞれ約300~400 bpまで絞り込み、これらの領域に存在する共通した転写因子の予測結合配列とIL-6応答性の報告を基に候補転写因子を選定して解析を進めており、複数の候補因子について継続的な解析に向けて良好な結果を得た。これらの結果を基にして、各々候補因子の機能的変異体(構成的活性化型、DNA結合能欠失型など)を用いた解析実施の準備を進めている。他方、IL-6以外の炎症性サイトカインを用いたレポーター解析の実施条件も整った。今後は、これらを基盤として、モデル遺伝子のプロモーター領域の炎症性サイトカインに応答した調節メカニズムを明らかにしていく。 実施期間第2年次に、所属研究機関の変更に伴う研究実施環境の整備などの理由から実施計画に多少変更点を生じたため、本研究の実施期間延長の承認を受けた。今後の解析項目は明確化されており、本研究課題の最終目的に向けて大きな支障はないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には、交付申請書に記した計画に従い研究を進める。本年度の実施成果を基に、HepG2細胞を解析系の軸に据え、選定したモデル遺伝子のIL-6に応答した発現抑制メカニズムの解析を進める。各々解析モデル遺伝子のIL-6応答性に必要とされるプロモーター領域において、共通に存在する転写因子の推定結合配列と既報のIL-6応答性を指標にして選定した候補転写因子のIL-6応答性への関与の検討を進め、2つの候補因子については継続的な解析に向けて良好な結果を得ている。そこで、これら2つを中心に解析を進める。機能的変異体の強制発現や特異的siRNAによる発現ノックダウンによって候補因子のHepG2細胞内での質的・量的発現を調節してレポーター解析や遺伝子発現解析、ChIP解析などを実施して、どのようにこれら候補転写因子がモデル遺伝子のIL-6応答性に関与するのかを明らかにする。並行して、IL-6以外の炎症性サイトカインについて、IL-6応答性の場合と同様の手法を用いてモデル遺伝子のプロモーター領域の解析を実施する。さらに、HepG2細胞で得られた結果について、ヒト初代培養肝細胞に近い特徴を有するHepaRG細胞を用いて細胞株間でのメカニズムの保存性に焦点を当てて検証する。これらの解析から得られた結果を基に、複数の解析モデル遺伝子のプロモーター領域の異同を明らかにし、肝臓における炎症性サイトカインに応答した薬物動態関連因子群の発現抑制メカニズムの体系的な理解を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 本年度は、前年度までの実施成果を基に、各々モデル遺伝子のプロモーター領域における炎症性サイトカイン応答性に必要とされる領域の絞り込みとその調節に関与する候補転写因子の検討を進めた結果、より詳細な調節メカニズムの解明に向けて良好な結果を得た。他方、実施期間第2年次に、所属研究機関の変更に伴う研究実施環境の整備などの理由から実施計画に多少変更点を生じたため、本事業実施期間の延長を申請して承認を受けた。 (使用計画) 次年度は実施最終年度となるが、本研究課題の目的達成に向けて、研究計画及び推進方策に沿いながら、研究費を研究遂行に使用する予定である。その内訳としては、HepaRG細胞を含む細胞培養関連試薬、ChIP解析関連試薬、レポーター解析関連試薬の購入を中心に、また、得られた本研究の成果を学会及び学術雑誌において発表するために使用する予定である。
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