本研究は、生体要因による薬物動態の変動について、炎症性サイトカインシグナルを介した薬物動態関連因子の発現調節メカニズムを明らかにすることを目的とする。in vitro解析系として用いたヒト肝癌由来細胞株HepaRGとHepG2では、IL-6刺激に応答して、一連の薬物動態関連因子の発現が転写レベルで抑制される。前年度までに、解析モデルに選定した薬物代謝酵素CYP1A2と薬物応答性転写因子CARの「構成的」な発現に関わる遺伝子プロモーター領域の解析を進め、両遺伝子プロモーター領域のIL-6応答性に必要な領域を200~350 bp程度まで絞り込み、既報及びそれらのDNA塩基配列情報に基づいてIL-6応答性に関わる転写因子の候補を選定した。本年度は、それら候補の中から、IL-6刺激下、両細胞株で発現が促進される転写因子DEC1に着目し、両解析モデルの遺伝子プロモーター領域のIL-6に応答した調節メカニズムの検討を進めた。CYP1A2について、DEC1は、転写開始点の近傍に存在する標的配列に直接結合して「構成的」な発現の抑制に関わることを見出した。また、CYP1A2は薬物曝露に応答して発現が著しく誘導される。DEC1は、転写開始点から離れたエンハンサー領域に存在する標的配列に直接結合して「誘導的」な発現の抑制にも関わることを見出した。CARについて、IL-6に応答した転写抑制には転写開始点から上流約200 bpの領域が必要であること、また、DEC1は直接的作用(標的配列への直接結合)及び間接的作用(他の転写因子との相互作用)を介してプロモーター活性を抑制すること、を見出した。本研究では、in vitro解析系を用いて、IL-6に応答した薬物動態関連因子の発現抑制メカニズムの解析を実施し、薬物応答性を規定する薬物動態の炎症を伴う病態時における変動の仕組みを理解する上で有用な知見を得た。
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