研究課題/領域番号 |
16K08392
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
村井 ユリ子 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (70209998)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 患者の評価指標 / 薬の適正使用 / 薬剤選択 / 領域横断的指標 |
研究実績の概要 |
薬剤師が個々の患者の薬物療法に深く関与するようになってきたが、薬学的な評価は十分でないように見受けられる。薬の適正使用のため、患者の状態の評価指標について検討することとした。 初年度である今年度は、現状を把握するため種々の職種への聴き取りや文献調査などを行った。一方、ブレインストーミングにより「適切な薬剤選択のために考慮すべき要因」を列挙してフィッシュボーン・ダイアグラムに表し、上げられた要因と現状調査結果の対比を行った。 主な調査結果を示すと、薬物動態に関わる肝機能や腎機能については、臨床検査値が薬剤投与前の評価や副作用モニターに用いられている。服薬アドヒアランスのチェックシートが主に看護領域で多数報告されているが、多くは項目ごとに2値化した評価である。認知機能評価には長谷川式簡易知能評価スケールやミニメンタルステート検査が、嚥下機能のスクリーニングには EAT-10 などの指標が用いられている。入院時や在宅ケアの場では、薬剤師や看護師、介護スタッフなどにより服薬アセスメントが行われているが、種々の剤形を使用するための手指の神経学的所見と実際に患者が個々の薬剤をうまく使用できるかどうかの関係などは、ほとんど明らかにされていない。処方前の投与経路・剤形選択については、いわゆる専門家の解説記事が多く、領域横断的な客観的指標は認められなかった。適用部位を意識した剤形分類(日本薬局方)や、電子申請のための剤形コード化などの基盤整備は進められている。 以上、投与経路選択や服薬の自立状況など、個々の患者の薬物療法への関与の出発点となる「薬物療法に対する患者身体状態の総合的評価」について、意外にも医療スタッフ共通の指標がなく、臨床薬学を進展させる上で大きな課題であると考えられた。これらの成果は日本薬学会第137年会で発表した(村井ほか、演題:服薬アセスメント指標の現状と確立の必要性)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「適切な薬剤選択のために考慮すべき要因」に関するフィッシュボーン・ダイアグラムの作成は当初予定していなかったが、多岐にわたる現状調査結果が得られたことに伴い、論点整理をするために作成することにした。フィッシュボーン・ダイアグラム作成後は、どの部分の要因(評価指標)が満たされているのか、あるいは不足しているのかが明らかになり、非常に有効であったと考えられる。 評価指標の策定や臨床応用には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
薬の適正使用のための基盤形成を目的に、臨床における薬学的・薬剤学的な立場から服薬についての評価指標の確立を目指す。さらに主として薬剤師向けにその評価指標を用いた研修プログラムを開発し、実践を図る。 今年度の研究成果をふまえると、従来用いられてきた指標を統合し、処方前に 薬剤選択を支援する評価指標が必要である。今後は投与設計や投与後のリスク評価に生かせる定量的評価指標を確立し、それと結び付けた投与経路選択アルゴリズム、薬剤選択アルゴリズムの作成などを目指したい。 特に服薬アセスメント指標(PS-PT: performance status of pharmacotherapy)の項目の策定を促進するため、例えば高齢者の薬物療法を想定し、今年度の調査で明らかになった種々の評価指標を統合する形で項目の具体化を急ぐ。 さらに、策定したPS-PT項目の臨床での評価のため、研究代表者の異動先(東北医科薬科大学薬学部臨床薬剤学教室)や当該教室と協力関係にある東北医科薬科大学病院薬剤部(薬学部病院薬剤学教室)に新たな研究協力者を得て、研究実施のための倫理審査申請を行う。
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