研究課題/領域番号 |
16K08400
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
矢野 育子 神戸大学, 医学部附属病院, 准教授 (50273446)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | NONMEM / PBPK / CYP3A5 / 生体肝移植 / 小児 / 発達 |
研究実績の概要 |
A. トリクロホスナトリウムの小児年齢別の薬物動態と薬効予測:リコンビナントヒトUGT分子種を用い, 活性体トリクロエタノールの代謝に関わる分子種を検討した結果,代謝活性を持つ分子種としてUGT2B7が同定された.また,トリクロホスナトリウムが投与された小児患者55名分の血中濃度データを用いて,母集団薬物動態解析を行った結果,クリアランスの変動因子として体重に加えて,投与前のビリルビン値が抽出された.一方,成熟度の影響は妊娠週数と体重との相関が高いため,変動因子としては抽出されなかった.
B. タクロリムスの生体肝移植後の肝再生とCYP3A5遺伝子型に応じた投与量調節:生体肝移植患者を対象に,移植後日数に応じて肝臓の再生が起こり,肝代謝型薬物であるタクロリムスのクリアランスが経時的に変化することを表す生理学的薬物動態モデルの構築を行った.モデルを基にシミュレーションした結果,クリアランスは肝臓の再生に伴い移植直後に大きく上昇するとともに,肝臓のCYP3A5遺伝子多型の影響を受け,CYP3A5*1アレルを持つ群では約45%高くなるという結果が得られた.一方,バイオアベイラビリティは小腸のCYP3A5遺伝子多型の影響を受け,CYP3A5*1アレルを持つ群では約40%バイオアベイラビリティが低くなるという結果が得られた.従って,見かけのクリアランスは肝臓,小腸いずれのCYP3A5遺伝子多型の影響も受け,その影響の大きさは同程度と示された.
C. バンコマイシンの小児年齢別の薬物動態と投与設計:未熟児を含む小児患者の血中濃度データを用いて母集団薬物動態解析を行い,小児発達が薬物動態に与える影響について評価した.さらに,得られたパラメータを基に小児年齢別投与量ノモグラムを作成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体肝移植後の肝再生とCYP3A5遺伝子多型の影響を定量的に示す生理学的モデルの構築に成功している.また,トリクロロエタノールやバンコマイシンについても小児での母集団薬物動態パラメータを算出することができている.
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今後の研究の推進方策 |
タクロリムスについては,モデル作成には用いなかった既発表の外部データを用いて,モデルの精度についてチェックし,必要な場合にはモデルの改訂作業を行う. トリクロロエタノールについては,鎮静に関する薬効データの解析を進め,有効血中濃度に関する情報を得る.その後,生理学的モデルを構築し,小児年齢別の血中及び脳内濃度推移を考慮した投与量ノモグラムを作成する.必要時には,基礎実験を追加する予定である. バンコマイシンについては,生理学的モデルを構築し, 実臨床データとの対応について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
臨床データの解析を中心に進め,実験用消耗品の購入を必要としなかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
臨床データ解析の結果抽出された因子の影響を定量的に評価するため,基礎実験を行う予定であり実験用消耗品の購入に充てる.
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