研究課題/領域番号 |
16K08401
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山本 和宏 神戸大学, 医学部附属病院, 薬剤師 (30610349)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 間質性肺炎 / 分子標的治療薬 / EMT / mTOR |
研究実績の概要 |
mTOR阻害薬エベロリムス(EV)による間質性肺疾患発症メカニズムの分子生物学的解明を目的とし、組織線維化の代表的なメカニズムである上皮間葉転換(EMT)に着目して、EMTの中心的制御因子であるTGF-βとEVの誘導するEMTとの関連性について基礎的検討を行った。ヒト肺胞基底上皮腺癌(A549)細胞を用いてEV長期曝露細胞(A549/EV 細胞)を樹立した。EMTマーカーおよびシグナル因子の変動はWestern blot法にて、TGF-βのmRNAの発現量はリアルタイムPCR法にて、細胞外分泌量はELISA法にてそれぞれ評価した。また、A549/EVを樹立する際にEVとTGF-β中和抗体を共存させた細胞(A549/EV+NA)も同様の方法により樹立した。A549/EV細胞はA549細胞と比較して、上皮系マーカーであるE-cadherinの発現低下ならびに間葉系マーカーであるVimentinの発現上昇を認めたことから、EMTの誘導が確認された。また、A549/EV細胞におけるTGF-βの細胞外分泌量はA549細胞と比較して2.9倍に上昇した。しかし、A549/EV+NA細胞のEMT index (Vimentin/E-cadherin)は、A549細胞の3.5倍であり、TGF-β中和抗体の存在下でもEMTの亢進を示した。また、A549/EV細胞にTGF-β受容体阻害薬であるSB431542を処置した場合のEMT indexはA549/EV細胞と比較して顕著な差を認めなかった。以上の結果より、EVによる肺組織の線維化のメカニズムにTGF-βの寄与は低い可能性が考えられた。 また、遺伝子多型と薬剤性間質性肺炎の発症との関連を検討するための臨床試験については、症例数を担保するため多施設共同研究を開始し、患者登録を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、薬剤性肺疾患の基礎的なメカニズムの検討を進めている。mTOR阻害薬の長期曝露細胞を樹立し、EMT誘導モデルとなることを確認した。そして、mTOR阻害薬の誘導するEMTにおいて、EMTの中心的な誘導因子であるTGF-βの寄与が低いことを明らかにしており、さらにシグナル伝達因子依存的なメカニズムの解明を進めている。現在、mTOR阻害薬の長期曝露細胞を用いてマイクロアレイ解析を行い、mRNA発現量の変化を解析している。メカニズム解析については当初の計画より進行していると考える。しかしながら、当初はmTOR阻害薬とEGFR阻害薬の両薬剤についてメカニズム解析を実施する予定としていたが、研究を実施する体制の都合上、薬剤はmTOR阻害薬に限定して進めているため、当初の計画以上に進展しているとは評価できない。以上より、おおむね順調に進展しているとした。 臨床研究の患者登録は順次進めている。単施設の臨床研究から多施設共同研究へ変更したため、他施設の進捗も本研究の進捗に重要な影響を及ぼす。当院施設患者に対しては目標症例数近くまで登録が進んでいるが、多施設共同研究のため、他施設の進捗が大きく影響する。一部施設では目標症例数を達成しており、随時、代表施設として研究進捗を管理するとともに解析を進める予定である。臨床研究においても患者登録を推進しているのはmTOR阻害薬使用患者であり、EGFR阻害薬は単施設で行う予定である。 上記の内容を包括的に評価し、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
薬剤性肺疾患の基礎的なメカニズムの解明については、研究体制の変化により、実験量が減少する。これをふまえ、外部委託が可能な検討項目については可能な限り外部委託により実施し、さらに、基礎的検討が可能な研究室との共同研究を拡大することも視野に入れ、実験量を担保することとする。また、マイクロアレイ解析に重点を置き、今後の効率的な研究スキームの設計のために、詳細な解析を行う。上記の内容について相談応需体制を整備することも重要である。EMT関連についての相談は近隣大学のネットワークを活用することで行い、マイクロアレイ解析については、現在、当薬剤部と共同研究契約を締結している化粧品企業、医薬基盤研究所等の専門部門に対して相談することとする。 研究により得られた成果を効率的に業績とするために、本学連携創造本部と緻密な連携体制を構築し、知財の獲得に尽力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の実施体制の変化から、基礎的検討の実験量が減少したことが大きく影響していると考える。詳細な条件検討の削減や予備的検討を縮小したにもかかわらず、実験のデータを蓄積することについては問題なくできているため、効率的に研究を進めることには成功している。さらに、抗体製品の安価な購入や実験器具の科研費以外での調達もわずかながら影響している。また、情報収集のための学会出張についても別の予算が付与されたことから、本助成金により旅費を支出する必要がなくなったことも寄与している。
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次年度使用額の使用計画 |
上述の理由により、部内の体制のみでは実験量が担保できない可能性がある。外部委託により実施可能な項目については、可能な限り外部委託業者に実験を委託するため、前年度より支払いが大幅に増額することが見込まれる。また、臨床研究を単施設から多施設共同研究へ変更したことから、次年度は多施設共同研究の施設訪問・サンプル回収が必要となり、旅費を申請することが予想される。以上より、当初の計画よりも外部委託費用、旅費が増額されることが見込まれることから、未使用額が使用されない可能性は低い。
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