薬剤には間質性肺疾患の発症頻度が高いエベロリムスを選択した。各種肺がん細胞にエベロリムスを72時間曝露し、線維化の初期過程である上皮間葉転換(EMT)の関連タンパク質の発現変動を評価した。A549細胞においては、エベロリムスを曝露後もEMT関連タンパク質の発現変動は認めなかったが、EBC-1細胞においては、間葉系マーカーであるVimentinなどの発現が増大し、上皮系マーカーであるE-cadherinなどの発現が低下した。このことから、肺胞上皮基底細胞では、細胞種によってエベロリムス曝露によるEMTの反応性が異なることが示唆された。さらに、細胞種によってEMTを制御するシグナル伝達因子として知られるAktおよびSignal Transducer and Activator of Transcription (STAT) 3のエベロリムス曝露後の 活性変動が生じることも明らかにした。これらのシグナル伝達因子の活性変動はEMTマーカーの発現変動に寄与することが考えられる。 また、エベロリムスと同様にmammalian target of rapamycin阻害薬による治療を受けた腎細胞がん患者を対象とした臨床研究において、STAT3遺伝子多型(rs4796793)の遺伝子型がCCを有する患者において、エベロリムスによる間質性肺疾患を発症する頻度が高いことを明らかにした。 基礎的検討に用いたA549細胞は標的遺伝子多型がGGであり、EBC-1細胞はCCであることから、STAT3遺伝子多型による機能的変異がエベロリムスの曝露によるSTAT3の活性化を誘導し、EMTを誘導することで間質性肺疾患を発症するメカニズムを解明した。
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