本研究は意欲や動機づけにかかわる神経メカニズムの解明を目的として、脳内自己刺激行動のRun-Way法により活性化される脳部位の特定を試みた。すなわち、内側前脳束ドーパミン神経への電気刺激を報酬を求めて装置を走行する動機づけ行動によって活性化される脳領域を評価した。まず、脳内自己刺激行動のRun-Way法における動機づけ走行を1日当たり30試行、5日間実施させたラットの脳を灌流固定の後に摘出し、凍結薄切切片を作成した。これらの脳切片を用いて、脳内で産生されるメッセンジャー蛋白質であるc-Fos、神経細胞の標識タンパク質であるNeuN、神経細胞の支持細胞であるグリア細胞の標識タンパク質GFAPおよびIba-1の発現変化を免疫組織染色法にて評価した。その結果、脳内海馬領域におけるGFAPおよびIba-1の陽性細胞数が対照群(動機づけと関連しない内側前脳束電気刺激供与群および無刺激群)と比較して有意に増加した。一方、c-Fosについては十分に再現性の良いデータが得られなかった。以上の結果から、報酬ならびに報酬獲得のための動機づけ行動は脳内海馬領域におけるグリア細胞の発現強度あるいは細胞機能を変化させるが、報酬として機能しない電気刺激ではこれらの活性化は生じないことが明らかとなった。 今後、グリア細胞の発現変化による神経伝達への影響を受容体機能および神経伝達物質の定量に評価する。さらにc-Fosタンパク質を定量可能な他の実験手法を用いて細胞活性化部位を特定する予定である。これらの方法により動機づけ行動による神経メカニズムへの影響を明らかにする予定である。
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