研究課題/領域番号 |
16K08407
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
賀川 義之 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (90397505)
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研究分担者 |
山本 吉章 独立行政法人国立病院機構(静岡・てんかん神経医療センター臨床研究部), その他部局等, その他 (60596245)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 4β-hydroxycholesterol / CYP3A4/5 / antiepileptics |
研究実績の概要 |
本研究は、抗てんかん薬における薬物相互作用の発現様式を解明することで、てんかん治療成績を向上させることを目的として、てんかん患者から得られた代謝酵素活性の内因性マーカーを測定し、遺伝子多型による影響も考慮しつつ、その誘導および阻害作用様式の解明に取り組んでいる。我々は、これまでに高速液体クロマトグラフ・タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)にキラル分離型カラムを組み合わせることで、CYP3A4/5の酵素活性マーカーである血漿中の4β-hydroxycholesterol(4βOHC)を、その光学異性体の4α-hydroxycholesterolと明確に分離して定量する方法を開発している。この定量法では、4βOHCの血漿中濃度として数ng/mL以上を定量可能であり、血漿中4βOHCの基準となる数十から100 ng/mLの濃度域および酵素誘導によって上昇した数百ng/mLまでの濃度域を広く測定できる。研究倫理委員会の承認を受け、抗てんかん薬投与患者から血漿を入手して4βOHC濃度を測定しており、症例数を増やしつつある。現時点で62名の患者から得られた成果を以下に示す。CYP3A4/5代謝酵素誘導能を有する抗てんかん薬(誘導薬)を服用している患者と誘導薬を服用していない患者に分けて比較すると、誘導薬服用患者で血漿中4βOHC濃度が有意に高値を示した。また、誘導薬が単剤で投与された事例では、カルバマゼピンおよびフェニトインで投与量(mg/kg)に比例した血漿中4βOHC濃度の上昇が認められた。このことから、誘導薬では投与量に依存して代謝能が増強されることが明らかになった。今後さらに症例数を増やして、血漿中4βOHC濃度の変化を測定するとともに、CYP3A4/5の遺伝子多型による血漿中4βOHC濃度への影響を検討することで、抗てんかん薬の薬物相互作用発現様式の解明に取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は血漿中4β-hydroxycholesterol(4βOHC)を4α-hydroxycholesterolと明確に分離して定量する方法を新たに開発している。これまでに光学異性体を分離可能なカラムを用いて血液中の4βOHCを分離定量した報告はなく、汎用型の高速液体クロマトグラフ・タンデム型質量分析計(API-3200Qtrap)を用いた新規定量法を実用化している。本定量法は臨床上の検出限界も十分に確保しており、患者検体の酵素誘導および酵素阻害作用を解析する上で有用なツールとなりうる。また、研究倫理審査会の承認を得て、患者からインフォームドコンセントを取得し臨床症例検体の測定に移行しており、症例数もすでに60例を越え症例収集が進んでいる。また、我々は以前の臨床研究において、抗てんかん薬の代謝や排泄に影響するCYP3A5やABCB1などの遺伝子多型についての検出方法をすでに確立しており、遺伝子多型の検出にも円滑に移行できると考えられる。このように、血漿中4βOHCの測定法を開発し、症例数の収集も順調に進んでいることから、本研究の目標である抗てんかん薬の薬物相互作用の発現機序解明に向け、進捗は順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
血漿中4β-hydroxycholesterol(4βOHC)濃度の測定法を開発し、症例の収集も順調に進んでいることから、承認を得た臨床研究計画に沿って当該年度はさらに症例数を増やしていく。CYP3A4/5代謝能を誘導および阻害する併用薬ごとに分類し、CYP3A4/5代謝能に影響しない薬剤をコントロールとしてその薬物動態を比較検討する。抗てんかん薬の代謝および排泄には、CYP3A5やABCB1などの遺伝子多型が大きく影響することが知られているが、我々はCYP3A5やABCB1などの遺伝子多型についての検出方法をすでに確立しており、遺伝子多型の検出も円滑に実施できる。そこで、血漿中4βOHC 濃度の測定と並行して、CYP3A4/5の発現に関与する遺伝子多型(CYP3A5*3、 CYP3A4*22およびcytochrome P450 oxidoreductase; POR)の影響を検討する。CYP3A5*3の遺伝子多型はPCR-RFLP法で、またCYP3A4*22およびPORの遺伝子多型はReal-time PCR法で検出する。これらの遺伝子多型の発現を考慮した上で、CYP3A4/5の代謝能の変化を併用薬剤ごとに観察し、薬物相互作用の発現機序解明の精度を上げていきたい。さらに、最終的な研究成果を原著論文として公表することを目標にして研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
患者検体が順調に集まり、血漿中4β-hydroxycholesterol測定を優先して実施したために、2017年度中に開始する計画であった遺伝子多型の解析が2018年度になった。そのことによって、遺伝子解析用の試薬類の購入が2017年度から2018年度となったために次年度使用額が生じた。
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