研究課題/領域番号 |
16K08411
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
山田 治美 国際医療福祉大学, 薬学部, 教授 (70433620)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | オキサリプラチン / 抹消神経障害 / 牛車腎気丸 / 冷感受容体 / 白金系抗がん剤 |
研究実績の概要 |
本研究では、臨床における白金系抗がん剤の神経障害の発症にかかわる因子探索と神経障害に対する漢方薬および生薬成分の副作用回避に着目し、研究成果の臨床へのデータのフィードバックに向けて研究を進めている。本研究は、①白金系抗がん剤による冷感知覚過敏が主な症状とする抹消神経障害(PN)発症因子解析と、冷感受容体の遺伝子発現とPN発症との関連性の解析、②PNに対する牛車腎気丸の投与時期の最適化、③PN抑制効果を示す生薬成分の絞り込み、の3つを主として企画しており、平成30年度においては、特に①、③について精査した。 研究項目①については、国際医療福祉大学三田病院において、オキサリプラチン(L-OHP)を含む化学療法施行患者の臨床データを収集し、PN発症に関与する因子についても探索を進めた。本成果として、白金系抗がん剤のL-OHPの使用患者において、初回投与量が多い場合、有意に急性PNが出現する頻度が高いことを示すことができ、論文が受理・掲載された。本成果は、今後冷感受容器の発現パターン解析を行う際の患者選択に、有用な情報になると確信している。 次に研究項目③の牛車腎気丸の生薬成分の絞込みについては、牛車腎気丸構成成分の中の6種にて構成する六味丸を使用して、牛車腎気丸同様にL-OHP誘発性冷感感受性亢進の抑制作用を示すことを確認した。 研究項目②については、まず冷感受容体のひとつであるTRPM8 mRNAの発現が報告されているLNCap細胞を用いて、L-OHPの添加によるTRPM8 mRNAの発現の変動を確認し、その後、牛車腎気丸の投与により、TRPM8 mRNA発現に対し何らかの影響があるかを確認する。本検討が終了次第、ラットDRG 初代培養細胞を用い、牛車腎気丸の投与時期の最適化について展開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度の研究の進行状況についてやや遅れていると判断する要因の一つとして、健常ボランティアの獲得が遅れていることが挙げられる。本研究では健常ボランティアより得られる口腔内細胞のTRPM8、TRPA1 遺伝子発現を確認できるか否かが重要項目の一つであり、サンプル採取にばらつきがあることが理由である。ただし、採取されたサンプルのPCR条件についてすでに条件設定は確定しており、サンプルが得られた際には直ちにその挙動を検討することが可能と考える。また、白金系抗がん剤のオキサリプラチン(L-OHP)を含む化学療法施行患者の臨床データから、L-OHPの初回投与量が多い場合、急性の末梢神経障害が低投与量の患者と比較して有意に発症の割合が多いことを示しており、研究としては進展していると判断している。 やや遅れていると判断する要因として、研究項目②についてラットDRG 初代培養細胞での検討が進行していない点を考慮している。ただし、本項目については、代替しうる細胞としてLNCap細胞を選択し、PCR条件を確立、TRPM8 mRNAの発現を確認し、L-OHP添加によるTRPM8 mRNAの経時変化データを収集している。研究項目③の牛車腎気丸の生薬成分の絞込みについては、牛車腎気丸構成成分の中の6種にて構成する六味丸を使用して、牛車腎気丸同様にL-OHP誘発性冷感感受性亢進の抑制作用を示すことを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、ラット脊椎後根神経節細胞(DRG)および冷感受容体発現細胞のLNCapを用い、オキサリプラチン誘発性末梢神経障害に対する牛車腎気丸の投与時期の最適化について検討を進める。以前の検討では、牛車腎気丸はオキサリプラチン投与前に摂取させた場合、その末梢神経障害抑制効果が認められている。そこで、オキサリプラチンおよび牛車腎気丸を暴露させるタイミングについて、検討を加える。また、オキサリプラチン誘発性末梢神経障害発症にかかる関連要因について、国際医療福祉大学三田病院と連携して引き続き調査をおこなう。 本研究は国際医療福祉大学薬学部、国際医療福祉大学病院および国際医療福祉大学三田病院との連携により実施されるものである。今年度、本研究について一定の成果が得られたことから、2報の雑誌論文が受理、掲載された。 今後の方針として、研究項目②牛車腎気丸の投与時期の最適化について、現在、ヒト細胞でTRPM8、TRPA1 遺伝子の発現が確認されているLNCap細胞だけでなく、ラットDRG 初代培養細胞において、白金系抗がん剤による変動が確認できるか検討を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
TRPM8、TRPA1 遺伝子の発現確認のための各細胞と遺伝子関連試薬の購入が当該年次に行わなかったことが、未使用額が生じた理由である。 今後の方針として、研究項目②牛車腎気丸の投与時期の最適化について、ラットDRG 初代培養細胞のみでなく、種々の他の培養細胞において、白金系抗がん剤による変動が確認できるか検討を進めている。現在、ヒト細胞でTRPM8、TRPA1 遺伝子の発現が確認されているLNCap細胞や強制発現株(Bisys社)において検討を進めTRPM8、TRPA1 遺伝子のL-OHP添加による変動について、L-OHP濃度および経時変化について詳細に調べ、牛車腎気丸の併用について検討を行う予定としている。本検討が終了次第、ラットDRG 初代培養細胞を用い、牛車腎気丸の投与時期の最適化について展開する。従って、当該年度に購入しなかった強制発現株(Bisys社)およびラットDRG 初代培養細胞の購入を計画している。
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