本研究では、臨床における白金系抗がん剤の神経障害の発症にかかわる因子探索と神経障害に対する漢方薬および生薬成分の副作用回避に着目し、研究成果の臨床へのデータのフィードバックに向けて研究を進めている。本研究は、①白金系抗がん剤による冷感知覚過敏が主な症状とする末梢神経障害(PN)発症因子解析と、冷感受容体の遺伝子発現とPN発症との関連性の解析、②PNに対する牛車腎気丸の投与時期の最適化、③PN抑制効果を示す生薬成分の絞り込み、の3つを主として企画しており、2019年度においては、特に①、③について精査した。 研究項目①については、国際医療福祉大学三田病院において、オキサリプラチン(L-OHP)を含む化学療法施行患者の臨床データを収集し、PN発症に関与する因子についても探索を進めた。本成果として、白金系抗がん剤のL-OHPの使用患者において、初回投与量が多い場合、有意に急性PNが出現する頻度が高いことを示すことができ、論文が受理・掲載された。本成果は、今後冷感受容器の発現パターン解析を行う際の患者選択に、有用な情報になると確信している。次に研究項目③の牛車腎気丸の生薬成分の絞込みについては、牛車腎気丸構成成分の中の6種にて構成する六味丸を使用して、牛車腎気丸同様にL-OHP誘発性冷感感受性亢進の抑制作用を示すことを確認した。研究項目②については、まず冷感受容体のひとつであるTRPM8 mRNAの発現が報告されているLNCap細胞では十分量のTRPM8 mRNAの発現が得られなかったため、同様に発現が確認されているラットシュワン細胞での発言パターン研究に着手した。 本研究を通じ、臨床でのL-OHP誘発性神経障害の発症に投与量が大きくかかわり、神経障害の改善に牛車腎気丸構成成分の中の6種にて構成する六味丸の奏功に関する基礎的知見を得ることができた。
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