研究課題/領域番号 |
16K08413
|
研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
亀井 大輔 昭和大学, 薬学部, 准教授 (80515651)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 末梢性顔面神経麻痺 / プロスタグランジンF2 |
研究実績の概要 |
難治化した末梢性顔面神経麻痺は、生涯にわたり持続する後遺症が問題視されている。難治化の原因は神経炎症等で変性を受けた顔面神経の再生過程における不完全回復が原因とされるが、その分子機構は不明で治療法も確立されていない。申請者は顔面神経損傷部位での生理活性脂質プロスタグランジン(PG)類の関与に着目し、顔面神経の回復過程における各PG類の役割を解明することで、末梢性顔面神経麻痺の難治化を予防する新たな治療法の基盤の確立を目指している。 平成28年度の研究において、マウス末梢性顔面神経麻痺モデルの麻痺の回復過程で、その神経損傷部位でのPGF2過剰産生が麻痺の治療抵抗因子として機能している可能性が示唆された。平成29年度は、神経障害部位で発現が認められた他のPG類であるPGI2の受容体に対するアナログを用いて、本モデルの麻痺の回復過程への効果の検討を実施した。 PGI2作動薬の顔面神経麻痺の回復過程への効果の検討結果 Indometacin(IDM)を投与したBalb/c系マウスの右側頭骨外顔面神経本幹を圧迫挫滅し顔面神経麻痺を発症させ、局所にPGI2アナログ(Beraprost)を含浸させた徐放性ハイドロゲルを留置後、麻痺の臨床スコアと鼻先の弛緩面積を指標として、顔面神経麻痺の回復過程を検討した。その結果、IDM投与下で局所にPGI2を徐放させたマウス群では、局所にPBSを徐放させたコントロール群と比較して、麻痺の回復過程に有意な違いは認められなかった。 以上より、末梢性顔面神経麻痺の回復過程において、神経損傷部位でのPGF2の過剰産生が麻痺の治療抵抗因子として機能しており、一方、PGE2及びPGI2は、その回復過程への寄与が少ないことが示唆された。本結果は、顔面神経麻痺の回復過程にPGF2の寄与を示唆する初めての知見であり、重要な研究成果であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトの目的を達成するための研究計画において、平成29年度は神経損傷部位で過剰産生される各PG類のうち、回復過程に寄与しているPG類の同定を目的とし、その方策として、PGE2やPGF2の各受容体の遺伝子改変マウスを用いた、マウス末梢性顔面神経麻痺モデルの麻痺の回復過程における効果の検討を計画していた。 本年度の研究では、上記の遺伝子改変マウスの譲受が困難であったことから、代替の方策として、各PG類を浸透させた徐放性ハイドロゲルを留置することで、回復過程に寄与している特定のPG類の同定を検討した結果、神経損傷部位でのPGF2の過剰産生が麻痺の治療抵抗因子であると同定され、その他のPGE2及びPGI2は寄与が小さいという知見を得たことが大きな進展であった。一方、遺伝子改変マウスやCOX-2選択的阻害剤を用いた検討が計画通りに進まなかったため、本年度の到達度を2と自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究推進方策では、平成28-29年度の結果を踏まえ、PGF2が麻痺の治療抵抗因子である可能性に着目して研究を展開する。神経損傷部位のPGF2徐放の有無による神経組織の遺伝子発現変化を、マイクロアレイを用いたディファレンシャル・ディスプレイで解析し、主に軸策伸張や髄鞘形成に寄与する因子を指標に解析を行うことで、PGF2を介在とした顔面神経麻痺の回復過程における分子機構の解明を目指す。なお、これら研究方策に係る研究費用については、当初の研究計画調書に申請した請求額内で実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、遺伝子改変マウスを使用して、顔面神経麻痺の回復過程に寄与するPG類の同定を計画していたが、マウス個体の譲受が困難であったことから計画通りに進まず、代替の方策によって神経損傷部位でのPGF2の過剰産生が麻痺の治療抵抗因子であると同定に至った。よって、予定していた試薬費、実験動物費が次年度使用額として生じた。また、旅費については、研究成果報告をした日本薬学会第138年会の会期が年度末であることから、事務手続き上、支払い申請が本年度に執行できなかった。 実施を予定していた本年度の研究計画は次年度に実施し、旅費の支払い申請も次年度に執行することで、計画通りの研究の推進と研究に伴う費用の支出を計画している。
|