難治化した末梢性顔面神経麻痺は、生涯にわたり持続する後遺症が問題視されている。難治化の原因は神経炎症等で変性を受けた顔面神経の再生過程における不完全回復が原因とされるが、その分子機構は不明で治療法も確立されていない。申請者は顔面神経損傷部位での生理活性脂質プロスタグランジン(PG)類の関与に着目し、顔面神経の回復過程における各PG類の役割を解明することで、末梢性顔面神経麻痺の難治化を予防する新たな治療法の基盤の確立を目的として研究を行なった。 本研究では、マウス末梢性顔面神経麻痺モデルを用いた薬理学的な解析を中心に(1)麻痺の回復過程における非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の効果の検討、(2)神経損傷部位における各PG受容体作動薬及び阻害剤の効果の検討、そして(3)麻痺後の顔面神経の再生過程で変動する関連遺伝子群の発現検討を行なった。 その結果、顔面神経の損傷部位におけるPGF2α過剰産生が、麻痺の治療抵抗因子として寄与していることを明らかにした。また、その作用機序として、PGF2α受容体(FP)を介した軸策伸張や髄鞘形成への関与が強く示唆された。 以上より、末梢性顔面神経麻痺の薬物療法において、ステロイドに代わる新規治療薬の候補として、各種プロスタグランジン受容体の作動薬や拮抗薬に着目した医薬品開発が有効である可能性が示唆された。また、難治化を予防する新たな治療法としては、PGF2αに着目した治療戦略が有効であり、特にPGF2α受容体の阻害作用を有する化合物は、末梢性顔面神経麻痺の難治化を防ぐ治療薬のシーズとして有力な候補となる可能性が強く示唆された。
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