肺MAC症の治療は、主薬のクラリスロマイシン(CAM)にリファンピシン(RFP)等を加えた多剤併用療法が推奨されている。この治療に無効あるいは副作用が発現した場合にレボフロキサシン(LVFX)などのキノロン系抗菌薬が併用される。しかし、本研究室での後ろ向き臨床研究で、CAMとLVFXの併用で治療効果の減弱が認められた。そこで、RFP前処置マウスに両剤を経口投与後の体内動態から相互作用を明らかにすることを目的とした。 ICR系雄性マウスにRFP(50 mg/kg)を5日間経口投与して作成したRFP前処置マウスにCAM単独(20、40、60 mg/kg)またはCAM-LVFX併用(CAM-LVFX:20-150、40-100、60-50 mg/kg)で経口投与し、4hr後に採取した血液、気管支肺胞洗浄液(BALF)および肺組織中のCAM濃度をLC-MS/MS法により測定した。治療標的部位である気道上皮被覆液(ELF)中CAM濃度は、血漿およびBALF中尿素窒素濃度から補正して算出した。 RFP前処置により、MDR1発現量は肺で有意に増加し、CYP3A発現量は肝臓および小腸で有意な増加が認められた。本マウスにCAM-LVFXを投与した際のELF中CAM濃度は、0.99±0.51μg/mL(CAM-LVFX:20-150 mg/kg)、3.14±2.46μg/mL(40-100 mg/kg)、7.95±9.32μg/mL(60-50 mg/kg)であり、CAM単独群と有意な差は認められなかった。一方、LVFX投与量の増加に伴い、肺からELFへのCAM移行率が減少する傾向が確認された。両剤ともにMDR1の基質であることから、気道上皮細胞のMDR1において両剤が拮抗したことが原因とであると推察される。肺MAC症治療において、LVFXの併用が治療成績を低下させる可能性が考えられる。
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