研究課題
本研究では、神経発達障害仮説に基づいた精神疾患の発症機序の解明を目的として、精神疾患発症や病態に関与する遺伝的要因あるいは環境的要因を負荷した精神疾患モデル動物における精神機能を検討した。①精神疾患患者とモデル動物の血液あるいは脳サンプルを用いてDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行い、共通して発現変化する新規精神疾患関連分子を探索した。その結果、統合失調症関連遺伝子として118遺伝子(減少60、増加58)が同定された。シナプス小胞サイクル、酸化的脱リン酸化、神経変性疾患(ハンチントン病、パーキンソン病)など、中枢神経機能との関連が示唆されている遺伝子機能がエンリッチしており、リンパ芽球様細胞株における遺伝子発現変化が統合失調症の病態像を反映している可能性がある。一方、統合失調症様モデルマウスにおいては、脳では546遺伝子(減少272、増加273、増減1)、血液では699遺伝子(減少269、増加430)の遺伝子発現変化が認められ、共通して発現変化が認められたのは34遺伝子(減少9、増加21、増減4)であった。②昨年度、様々な発症脆弱性を与える要因の共通因子としてプロスタグランジンE2(PGE2)を見出した。そこで、神経発達段階である周産期における免疫応答異常による成体期の精神行動学的異常の発現には、PGE2が関与しているかどうか検討した。その結果、PEG2を新生仔期に投与すると、35日齢ではなく、70日齢において情動性や認知機能障害が認められた。新生仔期にPGE2を投与した35日齢のマウスの前頭前皮質において、高カリウム誘発性グルタミン酸遊離能の低下が認められたが、グルタミン酸作動性神経(GLAST、GLT-1)やアストロサイト(S100タンパク質)のマーカータンパク質の発現、神経細胞の面積の縮小は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
神経発達障害仮説に基づいた精神疾患の発症機序の解明を目的として、従来の治療薬(抗精神病薬など)とは 作用機序が異なる因子を標的とした新しい診断・予防や治療法の開発を目指している。平成29年度は、精神疾患患者あるいは統合失調症様モデルマウスのサンプルを用いてDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行い、新規精神疾患関連分子を探索したところ、いくつかの神経精神機能との関連が示唆される遺伝子が同定された。一方、マウスの神経発達過程においてプロスタグランジンE2(PGE2)は、発症の脆弱性に関わることが見出された。現在、PGE2によって行動障害が認められた70日齢における神経化学的研究、周産期PGE2による遺伝子発現に与える影響については一部検討中である。したがって、研究計画の達成度は概ね順調に進展していると判断した。
①平成29年度の結果を踏まえて、統合失調症様モデルマウスの脳や血液において変化が認められた疾患候補遺伝子の機能をin silicoにより解析を行う。また、プロスタグランジンE2(PGE2)を新生仔期に投与した70日齢のマウスにおいて、35日齢と同様に神経化学的な解析(グルタミン酸作動性神経機能およびその関連分子やアストロサイトの発現変化、神経細胞の変化など)やDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行う。②周産期PGE2投与によるエピジェネティックな調節機構に関わる遺伝子を同定する。エピジェネティックな関与が明らかになった場合、モデル動物に認められる情動・認知機能に対するDNAメチル化阻害剤やヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の作用を検討する。以上、得られた結果は順次取りまとめ、成果の発表を行う。
モデルマウスでのDNAマイクロアレイ解析を行うための解析用キットや関連試薬は高額である。繰り越した助成金を購入費の一部にあてる。
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