研究課題
本研究では、神経発達障害仮説に基づいた精神疾患の発症機序の解明を目的として、精神疾患発症や病態に関与する環境的要因を負荷した精神疾患モデルマウスにおける精神機能を行動学的・神経化学的・分子遺伝学的に検討した。精神行動異常の脆弱性因子として同定したプロスタグランジンE2を新生仔期のマウスに投与し、免疫応答異常を誘発させた成体期(35と70日齢)のマウスにおける表現型とその分子基盤を検討した。その結果、35日齢ではなく、70日齢では情動性や認知機能障害に関わる精神行動異常が認められた。35日齢では前頭前皮質における高カリウム誘発性グルタミン酸遊離能が低下していた。前頭前皮質と海馬の網羅的遺伝子発現解析において、35日齢では細胞骨格や樹状突起発達の調節など、70日齢では不安行動および細胞接着などに関連する遺伝子の発現変化が認められた。したがって、新生仔期プロスタグランジンE2投与マウスでは、脳発達の臨界期・感受性期にグルタミン酸作動性神経系の機能異常を含む神経発達障害を来し、成熟期に認められる精神行動異常に対する脆弱性を形成すると推察される。統合失調症のリンパ芽球様細胞株と統合失調症様行動障害を示すフェンシクリジン投与マウスの血液および前頭前皮質の網羅的遺伝子発現解析において、中枢神経機能やエピジェネティック制御に関連する遺伝子の発現変化が認められた。以上の結果から、中枢神経の発達早期に精神疾患の発症脆弱性因子を曝露することにより、神経可塑性に関連する遺伝子やタンパク質の発現変化が生じること、グルタミン酸作動性神経伝達の異常を来すことが明らかとなった。これらはエピジェネティックな遺伝子発現制御を受けている可能性があり、脳形態変化や脳成熟後の精神行動異常の発現に寄与する可能性がある。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 2件)
Neuropharmacology
巻: 148 ページ: 107-116
10.1016/j.neuropharm.2018.12.020
巻: 133 ページ: 23-37
10.1016/j.neuropharm.2018.01.016
Int J Neuropsychopharmacol
巻: 21 ページ: 837-846
10.1093/ijnp/pyy038
J Sport Health Sci
巻: 7 ページ: 227-236
10.1016/j.jshs.2017.01.005
Cell Rep
巻: 24 ページ: 2838-2856
10.1016/j.celrep.2018.08.022
Transl Psychiatry
巻: 8 ページ: 129
10.1038/s41398-018-0177-8