研究課題/領域番号 |
16K08426
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
内田 享弘 武庫川女子大学, 薬学部, 教授 (70203536)
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研究分担者 |
吉田 都 武庫川女子大学, 薬学部, 准教授 (20369028)
伊東 祐二 鹿児島大学, 理工学域理学系, 教授 (60223195)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | SPR / Asp-Asp / Glu-Glu / Asp / Glu |
研究実績の概要 |
2018年度は、Kim MJらの文献(Biochem Biophys Res Commun,456, 586-590, 2015)を参考に2017年度に検討した苦味抑制が認められた2種のジペプチドAsp-Asp、Glu-Gluならびにアミノ酸であるAsp、Gluを用いて以下の検討を行った。 塩基性薬物のジフェンヒドラミン塩酸塩は苦味受容体タンパク(hTAS2R10、hTAS2R14)の基質であることが確認されている。この薬物にアミノ酸およびジペプチドの濃度を変化させた試料を添加し、味覚センサを用いて薬物の苦味に及ぼすジペプチドならびにアミノ酸の影響を評価した。センサ膜は苦味応答性に優れたBT0膜を使用した。その結果、ジフェンヒドラミン塩酸塩(0.5 mM)の苦味センサ出力値はAsp-AspまたはGlu-Glu(各0.1、0.5、1.0、5.0 mM)添加濃度依存的に抑制された。抑制率はAsp-Asp>Glu-Glu>Asp>Gluの順となった。この結果はアミノ酸の脂溶性や酸性度と相関していることも示唆された。さらにAsp-Asp、Glu-Glu、Asp、Gluの苦味受容体に対する親和性を評価するため、SPR測定を行った。自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM)を形成した金薄膜にヒト苦味受容体タンパク(hTAS2R14)を固定した。金薄膜にhTAS2R14を固定した場合、固定しなかった場合と比較してSPRシグナルの生じる偏光照射角度変化が認められたことからhTAS2R14が金薄膜に固定されたことが強く示唆された。 SPR測定によるスペクトラム変化の大きさは、Asp-Asp>Glu-Glu>Asp>Gluの順であり、ジペプチド、アミノ酸のhTAS2R14への親和性の違いがジフェンヒドラミン塩酸塩を競合的に拮抗する苦味抑制機序を考えるに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、ヒト苦味受容体の細胞外領域アミノ酸残基を標的として、アミノ酸20残基をランダム配列した2本の分子鎖をリンカー分子で結合させた人工抗体分子を作製することを目的としている。ヒト人工抗体ライブラリのアミノ酸残基配列を参照し、アミノ酸20残基の配列の中で、重要なジペプチドやアミノ酸配列を見つけることが必須であり、これはアミノ酸20残基の配列をランダム化したペプチド鎖を複数合成する上で重要である。 アミノ酸であるAsp、GluとペプチドであるAsp-Asp、Glu-Gluが重要なアミノ酸、ペプチド構造であることが明らかとなったため、これをランダムに配列させたペプチドを合成することで、さらにヒト苦味受容体タンパク(hTAS2R10, hTAS2R14)に親和性がある苦味抑制ペプチドの最終合成が可能となると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト苦味受容体タンパクであるhTAS2R14に加えてhTAS2R10のリガンドの可能性があるドネペジル塩酸塩、キニーネ塩酸塩、デキストロメトルファン臭化水素酸塩を用いてこれらの薬物と苦味受容体タンパクとの結合解離を測定し、その応答を確認した後、各種ペプチドと苦味受容体との結合解離を測定する。Asp-Asp、Glu-Glu、Asp、Gluによる薬物の苦味抑制効果を味覚センサとSPRにより検証する。SPR測定において、金薄膜への苦味受容体タンパク固定化とその検証は特に重要である。金薄膜はエタノールと超純水で洗浄した後、ピラニア溶液中で洗浄する。その後、hTAS2R10のリガンドの可能性があるドネペジル塩酸塩、キニーネ塩酸塩、デキストロメトロファン臭化水素酸塩を用いて処理を行い、金薄膜を1 mMチオール溶液(11-Amino-1-undecanethiol 0.96 mg/ethanol 4 mL)に24時間浸漬する(SAM形成)。SAM形成した金薄膜を1%グルタルアルデヒド溶液5 mLに2時間浸漬した後、超純水で洗浄する。金薄膜に、1μg/100μLのhTAS2R10またはhTAS2R14を滴下して表面を覆い12時間静置することで苦味受容体タンパクを固定化させる。 これら種々の合成抗体分子の候補物質とヒト苦味受容体の細胞外領域アミノ酸残基との親和性を検証するために、複数の細胞外領域アミノ酸残基とセンサアレイした分子を用いて分子間相互作用解析(SPR)を行うことで最適な苦味抑制効果をもつ抗体を探索するシステムを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Asp-Asp、Glu-Glu、Asp、Gluのヒト苦味受容体hTAS2R14への親和性をSPRで測定する実験において、測定時間が長時間必要であることから幅広く濃度を振った実験を実施できなかったため。また、基質となる薬物についてもジフェンヒドラミン塩酸塩が主となり、当初予定していたドネペジル塩酸塩については一濃度でしか実験を実施していないため。 ジフェンヒドラミン塩酸塩については明瞭な結果が得られたため、最終年度である2019年度は、アミノ酸、ジペプチド共存下で他の受容体の代表的な基質となっている薬物を対象に受容体への親和性について速度論的な解析を実施したい。
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