研究課題/領域番号 |
16K08435
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
阿部 寛 秋田大学, 医学系研究科, 名誉教授 (40151104)
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研究分担者 |
鈴木 良地 秋田大学, 医学系研究科, 准教授 (20396550)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | human fetus / human embryo / serial sections / histology / development / muscular tissue / nervous tissue / cardiovascular tissue |
研究実績の概要 |
ヒトの四肢や臓器の構造は受精後8週で完成に近づくが、中期・後期胎児期にヒトに特有な変化を追加し新生児の形態に近づく。しかし初期発生と成人の所見を埋める情報がヒトの中期・後期胎児に求められる。 28ー29年度に引き続きマドリッド市のコンプルテンセ大学解剖学人体発生学講座(ホセ ロドリゲスバスケス教授(研究協力者))を訪問し、集中的に胎児切片の観察を行った。また秋田大学で保管中の中期以降の胎児標本について新たにHE染色などを行った。両大学のテーターに基づき胚子期から中期胎児にいたる神経系・運動器系・内臓系の形態形成の解析を行うことを目的とした。平成30年度において研究協力者の論文を合わせて15編の論文を査読のある欧文誌に掲載することができた。すべてヒトの後期胎児にいたる形態学的所見である。以下に代表的な成果を概説する。 胎児の手指の末節において、大きさ0.2-1mmのパチーニ小体が固有掌側指神経に沿い45から75個、さらに爪床と屈筋腱の腱鞘内にも分布していた。3次元的な花束状ないし樹木状の集合体も見られた。いずれも胎児に特徴的であり、高齢者の指ではパチーニ小体の分布密度は胎児よりも極端に少なく、加齢により消退していると考えられた。 耳小骨の発生を検証し、きぬた骨が第一鰓弓に由来すること、はじめは耳胞に接触しているが次第に独立すること、メッケル軟骨には由来しないことを新たに示した。 上下肢の複数の骨格筋を囲むdeep fasciaの形成様式を検討した。初期には筋の外表面に薄く疎な結合組織層として発生し、やがて厚く丈夫な層となり筋表面から遊離した。続いてその深部で筋表面との空隙に第2の層が形成され、同様に筋から遊離した。このように次々と上腕三頭筋と外側広筋の外部に3層のdeep fasciaが形成された。皮下のsuperficial fasciaはこれらとは別に新たに形成された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スペイン、マドリッドのコンプルテンセ大学人体発生学講座に研究責任者・研究分担者・研究協力者が複数回訪問し、保存されているヒト胎児切片の観察を進めてきた。同講座のロドリゲス教授との協力関係も問題がない状況である。 秋田大学で保管中の胎児標本よりいくつかを切片化して観察してきた。今後とも観察が可能である。 研究発表としては、28から30年度の観察事項を複数の解剖学専門雑誌に投稿し、すべて査読のある論文(14ないし15報/年)として掲載することができた。
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今後の研究の推進方策 |
28から29年度に引き続き、成人の解剖所見とヒトに特有の発生期の所見を埋める情報を、ヒトの中期~後期胎児に求めたい。そのためにコンプルテンセ大学人体発生学講座の保存切片と秋田大学の保存胎児標本の観察を進める予定である。 神経系では中期以降の胎児の心筋における自律神経の分布様式を解明する。 循環器系では胎児期に特有の動脈管と左鎖骨下動脈との位置関係を既に横断切片を用いて追究し報告したが、縦断切片による観察を行って新たな知見を得たい。 内臓では、腎臓が骨盤内に発生して血管をリモデリングしながら上行すると言われているが、胎児の連続切片を用いてその概念を再度検証していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
30年度は本科研費補助金を用いてスペインのコンプルテンセ大学胎児の切片観察に赴いたのは研究分担者のみにとどまり、研究代表者が同行することができず、研究協力者も他の研究資金を用いた。標本作製の外注についても他の資金を活用した。消耗品の費用も少ない額でとどまった。 次年度は旅費の支出を調整し、論文の掲載料等についても本補助金から支出するようにしたい。
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