研究課題/領域番号 |
16K08435
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
阿部 寛 秋田大学, 医学系研究科, 名誉教授 (40151104)
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研究分担者 |
鈴木 良地 秋田大学, 医学系研究科, 准教授 (20396550)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | human embryo / human fetus / topographical anatomy / histology |
研究実績の概要 |
本基盤研究は、初期発生と成人をつなぐ中期後期胎児の形態形成の追究を目的とする。 大腿骨外側顆を起始とする足底筋(plantaris muscle、PL)と腓腹筋外側頭(lateral head of gastrocnemius muscle、GL)について、28~37週の15体の胎児を観察した。PLとGLのいずれも3個ずつ起始(PL1、PL2、PL3、GL1、GL2、GL3)を有していた。PL1は大腿骨外側顆のやや上で独立した起始腱をもち、他の5つは共通の起始腱から始まりその中にfabellaと称する線維構造を含んでいた。足底筋のPL2とPL3の2つは消失またはGLに吸収されPL1のみ成人の足底筋の起始として残った。GLの3起始は共通腱として残存しfabellaを含んでいた。歩行開始による機械的なストレスがこれらの起始腱に加わり、癒合や吸収が起こると考えた。 胸腰筋膜(thoracolumbar fascia;TLF)の発生について25体の胎児を観察した。既報の2層ではなくposterior、middle、anteriorの3層を観察した。Middle-TLFは横筋筋膜の延長として9週までに発生し、腸肋筋と腰方形筋の筋間中隔として発達し、25週以降にposterior TLFと接続した。本例は筋膜どうしの接続が胎児期に大きく変化する例と考えた。 耳硬化症の部位や外リンパ液漏の通路となる蝸牛壁内の間隙(FAF)について、32体の胎児を観察した。FAFは8-12週に耳胞軟骨の蝸牛基底回転と第2回転の間の裂け目として現れ、蝸牛前庭階(外リンパを含む)に連絡していた。13-15週では1端は卵円窓につながるが別の1端は膝神経節の付近で閉鎖した。16週以降では卵円窓の前縁に沿って存在した。蝸牛管の3次元的なコイル形成に伴う機械的刺激によってFAFが形成されると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度までは、スペイン、マドリッドのコンプルテンセ大学人体発生学講座を研究責任者・研究協力者が複数回訪問し、保存されているヒト胎児切片の観察を進めてきた。同大学との協力関係は全く問題がないが、2020年度につづいて2021年度においても、Covid-19の感染の拡がりによる渡航制限のため訪問することが極めて困難であった。研究期間を1年間延長していただいた上、過去の訪問で予備的に観察した事項を整理し、また秋田大学で保管中の胎児標本よりいくつかを切片化して観察し、胎児と成人の所見を比較した。 研究発表としては、2021年度における観察事項を複数の解剖学専門雑誌に投稿し、すべて査読のある論文( 4編)として掲載することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本基盤研究の予算を2022年度まで再度延長することを承認していただいた。引き続き、成人の解剖所見とヒトに特有の発生期の所見を埋める情報を、ヒトの中期~後期胎児に求めたい。そのためにコンプルテンセ大学人体発生学講座の保存切片、秋田大学の保存胎児標本の観察を進める予定である。 スペインに渡航することができるかどうか、未知の部分が大きいが、秋田大学の保存胎児標本や既存の標本ブロックからの切片作成にも注力していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度までは、スペインのコンプルテンセ大学胎児の切片観察のための海外渡航旅費が中心であった。しかし2020年度に続き2021年度もCovid-19感染の広がりで渡航が困難となり、海外旅費として使用することがほとんど不可能な状況であった。 2022年度は再延長を認めていただいた予算を使って、可能であれば再びスペインに渡航して胎児切片の観察を実施したい。 これまで作成した標本の切片化や、秋田大学の胎児標本の染色と観察を実施したい。そのための必要な消耗品も確保したい。
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