研究課題/領域番号 |
16K08435
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
阿部 寛 秋田大学, 名誉教授, 名誉教授 (40151104)
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研究分担者 |
鈴木 良地 秋田大学, 医学系研究科, 准教授 (20396550)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | human embryo / topographical anatomy / human fetus / histology |
研究実績の概要 |
胎児の遺体の解剖は極めて困難であり、実験動物は四肢などヒト固有の構造について相当に異なる。それゆえヒトの胎児期の形態形成と成人の形態との連続を説明する解剖学的な所見は乏しい。 本研究はスペインのコンプルテンセ大学と秋田大学の胎児標本を用いて、中期・後期胎児における形態形成の追究を目的とする。2022年度においては特に運動器系を対象とした。 仙骨と腸骨の間の仙腸関節について10週以降の24体の胎児を観察した。腸骨の膜性骨化が10週から、また軟骨内骨化が12週から始まった。少し遅れて関節軟骨の形成が始まり、これらの形態変化は腸骨の前方から後方に向けて進行した。関節腔はさらに遅れて19週から形成された。このような経時的変化は顎関節のような関節円板を持つ関節や腕橈関節などの一般的な関節とは異なっていて、胎児の成長と生後の二足歩行に基づく機械的な刺激によって惹起されるものと考えられた。 8週以降の胎児の踵骨腱(アキレス腱)を包む腱鞘の形態形成を観察した。腓腹筋に沿い足底筋の腱が踵骨腱の腱鞘の最内層あるいは中間層に含まれていた。最外層は厚く他の筋膜構造と結合していた。成人の足底筋の腱の大きな個体差は、歩行による機械的刺激による再構築に伴って生じると考えられた。 足首の捻挫では距骨と腓骨との間の前距腓靭帯と後距腓靭帯の損傷を起こすことが多い。9週以降の胎児から2種の靭帯の形成を観察した。9-10週では両者とも水平に直線的に走行する線維束であった。前距腓靭帯は距腿関節の関節包の肥厚として観察され、一方後距腓靭帯は12週までは距腿関節から離れて存在した。後期胎児では両者とも水平の線維束は見られず、前距腓靭帯は関節腔に露出し、後距腓靭帯は不規則な走行の線維束となった。胎児の2種の靭帯はいずれも成人の水平かつ直線的な走行とは異なっており、生後の二足歩行に伴う機械的な刺激によって形成されると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度までは、スペイン、マドリッドのコンプルテンセ大学人体発生学講座を研究責任者・研究協力者が複数回訪問し、保存されているヒト胎児切片の観察を進めてきた。同大学との協力関係は全く問題がないが、2020年度以降はCovid-19の感染対策による渡航制限のため、訪問することが極めて困難であった。そのため以前の訪問で予備的に観察した事項を整理し、また秋田大学で保管中の胎児標本よりいくつかを切片化して観察してきた。 研究発表としては、2020年度の観察事項を複数の解剖学専門雑誌に投稿し、すべて査読のある論文(4編)として掲載した。
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今後の研究の推進方策 |
本基盤研究の予算を2023年度までさらに延長することを承認していただいた。引き続き、成人の解剖所見とヒトに特有の発生期の所見を埋める情報を、ヒトの中期~後期胎児に求めたい。そのためにコンプルテンセ大学人体発生学講座の保存切片、秋田大学の保存胎児標本の観察を進める予定である。 2023年度にスペインに渡航できるかどうか未定であるが、感染状況を見ながら検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度までは、スペインのコンプルテンセ大学胎児の切片観察のための海外渡航旅費が中心であった。しかしその後はCovid-19感染の広がりで渡航が困難となり、海外旅費として使用することがほとんど不可能な状況が続いた。 2023年度は可能であれば再びスペインに渡航して胎児切片の観察を実施したい。 これまで作成した標本の切片化や、秋田大学の胎児標本の染色と観察を実施したい。そのための必要な消耗品も確保したい。
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