ヒトの形態形成では中期・後期胎児期においても大きな変化が認められるので、胎児の切片を観察する必要がある。スペインのコンプルテンセ大学と秋田大学の胎児の連続切片を観察して、神経系・内臓系・運動器系の形態形成を追究してきた。最終年度は以下の論文を発表した。 胎児の上眼瞼、眼輪筋が矢状面では屈曲して眼瞼縁に達する。まばたきの頻度は少ないので他の筋とくらべて弛緩状態にあるだろう。生直後の効果的なまばたきに適応した構造であろう。 胎児の左肝動脈からでるmarginal branchという枝は、スペインの胎児にはみられず日本人の胎児にのみ存在した。この動脈の肝実質への枝は、肝臓表面と横隔膜との間の摩擦により退化する一過性の破格と考えられた。 胎児の仙腸関節の形成を顎関節、肘の腕橈関節と比較した。顎関節では骨膜様の膜が下顎骨頭と側頭骨関節面の両者に形成された。腕橈関節では骨膜様の膜は関節面まで覆わず、関節軟骨が関節腔に面した。仙腸関節では仙骨の骨化が先行し関節軟骨が、続いて関節腔が形成された。このような連続性は顎関節と腕橈関節ではみられなかった。骨化した腸骨からの機械的刺激により関節軟骨の形成が促されると考えられた。 胎児内耳の内リンパ腔と外リンパ腔の成長を追究した。内耳のスペースは限られていて外リンパ腔が拡大するため、内リンパの膜は波状を呈した。球形嚢・卵形嚢・半規管の外リンパ腔の網状構造は次第に減少し、残りの網状構造の中に静脈を有した。卵形嚢と半規管の成長率の差のため、これらの結合部において膜の波状変形がより多く見られた。また内耳の前庭水管および球形嚢・卵形嚢・半規管の内リンパの形成では、前庭水管は初期には卵形嚢と接続するが6-8週の胎児では球形嚢と接続するように移動した。これは内リンパ膜の成長の差によって生じるものであった。
|