研究実績の概要 |
本研究は哺乳類の卵丘細胞による受精促進機構について解析した。卵胞液および精子先体には下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)が存在し,卵丘細胞にはPACAP受容体が発現している。卵丘細胞にPACAPを作用させると精子の先体反応と透明帯通過を促進する因子が放出された。この受精促進因子を同定するために,卵丘細胞にPACAPを作用させ,発現変動する遺伝子をマイクロアレイによって網羅的に検索した。発現上昇した遺伝子の中から,細胞外に分泌される分子に絞り込み,その受容体の局在と作用を調べた。 1.発現上昇を示した分泌分子の遺伝子は,Neurokinin A, CCL2, CCL3, CXCL1, Heparin-binding EGF-growth factor, CSF3, Lactotransferrin, Oviductal secretory protein, Complement protein component3, Demilune cell and parotid protein1である。このうち前の7分子の受容体は精子鞭毛または頭部に局在することを確認した。Neurokinin Aの特異的受容体NK2RおよびCCL2の特異的受容体CCR2を精子細胞膜分画中に同定した。 2.Neurokinin Aは精子の先体反応を促進し,精子の透明帯通過を上昇させた。NK2RのアンタゴニストはNeurokinin Aによる効果を抑制し,PACAPによる受精促進効果も抑制した。 3.排卵後の卵管膨大部液中にCCL2を120 -150 pg/mLの濃度で検出した。CCL2は精子を誘引する作用を認めた。 PACAPの作用で発現上昇する分泌性タンパクには,着床や初期発生を促す働きを持つものが含まれており,卵丘細胞の作用は受精だけでなく,妊娠の成立に重要な役割を持つと考えられる。
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