研究課題/領域番号 |
16K08439
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
齊藤 成 生理学研究所, 脳機能計測・支援センター, 特任助教 (10456444)
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研究分担者 |
丹生谷 正史 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 病院 精神科, 講師 (00228256)
大野 伸彦 生理学研究所, 分子細胞生理研究領域, 特任准教授 (10432155)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 上皮間葉転換 / 糖尿病性腎機能障害 / 糖尿病性脳機能障害 / 新規バイオマーカー / SBF-SEM |
研究実績の概要 |
2 型糖尿病早期発症マウスモデル (High Fat Induced Obesity C57BL/6J mouse)用いてSGLT阻害剤(Phlorizin)投与した。20W HFD群で、体重増加と高血糖、高インスリン血症及び高脂血症(HDL・TG)を認めた。近位尿細管(PCT)障害マーカー(尿中KIM1とL-FABP)が上昇した。HFD群にSGLT阻害剤を投与することにより、尿糖の排泄増加に伴う血糖値低下を認め、TGが上昇し、クレアチンが減少を伴う尿排泄増加が認められた。同時に、尿中L-FABP/クレアチンが上昇し、尿中KIM1/クレアチン変化は認められず、TGF-beta/クレアチン排泄が上昇した。また、尿中TGF-betaの変化に伴い、HFD群の近位尿細管(PCT)でKi67(Mitotic marker)が上昇し、SGLT阻害剤を投与により、PCTのKi67は減少し、PCT近傍の支持組織細胞で上昇した。LC-MSによる腎臓皮質のリン脂質解析を行った。STD群に比べHFD群で、sphingomyelinの減少とphosphatidyl cholinの増加が認められ、HFD群SGLT投与群でceramide-1-phosphateの上昇した。
SBF-SEMとSTEM-EDX解析で、HFD群のPCT-foot processの形態異常と、PCT(S1~S3)のmitochondriaの断片化と、S2を中心に巨大なオートファゴソーム様(At)にリン脂質の集積を認めた。HFD群にSGLT阻害剤を投与することで、Atは減少し、Lysosomeと癒合する空胞形成が認められた。顕微ラマン分光解析で、Atにsphingomyelinが認められた。SGLT阻害剤によりPCTの上皮細胞内膜の再編成を起こし、酸化脂肪酸結合蛋白であるL-FABPと共に除去される機構が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度9月に山梨大学解剖学講座から生理学研究所電子顕微鏡室への所属変更に伴い、実験計画を一部変更した。動物実験は山梨大学動物実験計画書に基づき行った。平成28年度に予定していた血清と尿のバイオマーカー測定のために、高脂肪食負荷マウスのSGLT阻害剤投与前後の尿をメタボリックケージで尿を分別採取し、ELISA測定(KIM1・L-FABP・TGF-beta)を行なった。同時に、血清と生化学解析用の組織を採取・凍結保存を行ない、平成29年度以降に予定していた脂質ラフト領域での生化学解析(リン脂質のLC-MS解析)の前倒して行った。
また、電顕サンプルの作成を進め、平成29年度に予定していたSBF-SEMによる3D電顕解析を生理学研究所で研究分担者(大野)と連携研究者(高木)と腎臓組織を中心に前倒しして行った。同時に、STEM-EDXによる電子顕微鏡レベルでの元素分析とラマン分光顕微鏡を腎臓組織で追加した。連携研究者(高木)とラマン分光顕微鏡で腎臓組織内のリン脂質蓄積の分子がスフィンゴミエリンと同定した。海馬組織に関しては、研究分担者(丹生谷)の作成したラットの脳海馬組織(CA1領域)でSBF-SEM撮像条件の検討を研究分担者(大野)と共に行っている。リン脂質代謝異常が血管構築の複雑な腎臓・膵臓・脾臓・肝臓・胸腺でも、同様に起きていることが考えられたので、電顕サンプルと凍結試料を作成した。現在、生理学研究所電顕室のSBF-SEMを用いて、電顕サンプルの撮像を順次行っている。異動先の生理学研究所での動物実験申請を行い、平成29年4月からの動物実験を承認を受けたので、クロドロン酸を投与し、マクロファージを障害した実験系を平成29年度から再開予定である。なお、平成28年度に予定していたシャトル箱法による精神科領域の動物行動実験(分担 丹生谷)を平成29年度以降に変更とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度4月から再開する動物実験において、2 型糖尿病性マクロファージ障害マウス(クロドロン酸投与+高脂肪食負荷)に上皮保護作用を持つSGLT 阻害剤投与し、腎臓ネフロンおよび海馬神経組織での上皮損傷と上皮障害を補填するマクロファージに 及ぼす上皮間葉転換への影響をさらに解析していく。上皮間葉転換に着目した脳、腎糖尿病疾患の治療法開発の新規バイオマーカー探索研究を促進するために、動物実験サンプルの生化学解析の手法をELISAと質量分析を組み合わせることで、効率よくスクリーニングしていく。その際に、SBF-SEMを中心に複合的な顕微鏡解析を組み合わせることで、バイオマーカーの検出を効率よく行うことができる。特に、SBF-SEMに用いられる還元オスミウムを用いた電顕サンプルの解析では、高脂肪食負荷に伴うリン脂質の蓄積が形態的な特徴として捉えることが容易にできることがわかってきた。リン脂質の蓄積と酸化脂質結合蛋白である臓器特異性を持つFABP―familyに結合するリン脂質が上皮間葉転換に及ぼす影響を解析していく。特に、多量に蓄積するリン脂質に関しては赤血球の細胞膜に取り込まれることが考えられる。糖尿病の指標に用いられるヘモグロビンA1C同様に、糖尿病の数ヶ月の状況を安定的に捉えることができるため、ラマン分光計を用いて簡便に測定する系を立ち上げる予定である。特に、海馬脳血管の内皮細胞と周辺のオリゴデンドロサイトとの関係を捉えるための3D免疫電顕法とSBF-SEMの組み合わせを行ない、脳血液関門の破綻を形態学的に定量的解析を含めて進めていく。動物実験の行動解析に関しては、生理学研究所でも行えるように準備を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の支払い請求額のうち、11,528円を次年度に計上した。研究分担者と連携研究者とのミーティング等の旅費として残してあった。生理学研究所でのSBF-SEM撮像を研究分担者(丹生谷)の大学院生(研究協力者 榎本)と連携研究者(高木)と計4回行った、その際に、ミーティングも同時に行った。山梨大学から、研究分担者及び連携研究者の各大学に出張する必要がなくなったため、残高を一部消耗品に充当したが、十分研究を遂行できたため、次年度に計上した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に計上した11,528円は、研究分担者と連携研究者とのミーティング等の旅費に計上する予定である。
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