研究課題/領域番号 |
16K08441
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
宇田川 潤 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (10284027)
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研究分担者 |
木村 智子 滋賀医科大学, 医学部, 助手 (00449852)
武井 史郎 浜松医科大学, 医学部, 特任助教 (60398576) [辞退]
山崎 文義 浜松医科大学, 医学部, 特任助教 (80725755)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 胎生期 / 低栄養 / 行動異常 / 前頭前皮質 / リン脂質 |
研究実績の概要 |
胎生初期の低栄養ストレスは生後の仔の行動異常や脳リン脂質代謝・構成異常を引き起こす。本年度は胎生初期の低栄養ストレスが誘因となる、生後の脳の各部位のリン脂質代謝・組成異常のパターンの詳細を明らかにするため、以下の研究を行った。 1.胎生5.5日から10.5日に低栄養負荷を行った雄ラットの生後9週の脳において、多動に関連する前頭前皮質、側坐核、線条体のリン脂質組成を質量顕微鏡で調べた。低栄養ラットの前頭前皮質では対照群と比較して、18:0p-22:6ホスファチジルエタノールアミン(PE)および20:1リゾフォスファチジルエタノールアミン(lyso PE)が有意に増加していたが、側坐核および線条体ではこれらに変化がなかった。さらに、前頭前皮質ではジアシル型リン脂質合成酵素の他、Agpsなどプラズマローゲン合成酵素の遺伝子発現が増加していたが、側坐核ではGpat1の発現のみの減少が認められた。したがって、前頭前皮質のPE増加が行動異常と関連している可能性が示唆された。胎生10.5日の前脳でもホスホリパーゼA2などの遺伝子発現に変化が認められ、低栄養ストレスによるリン脂質代謝異常が神経幹細胞ですでに生じている可能性が示唆された。 2.生後14週の成獣ラットに18:0p-22:6 PEを投与し、行動ならびに脳のリン脂質組成変化を解析した。投与5週前の行動解析結果と比較したところ、対照群と比べて低栄養群では週齢を経てもcrossingが高いレベルで維持されることが明らかとなった。また、PE投与群では前頭前皮質において18:0p-22:6 PEが有意に増加しており、側坐核や線条体では変化が無かった。 上記1、2の結果により、胎生初期の低栄養は特に前頭前皮質のリン脂質代謝および組成異常を生じ、特にプラズマローゲン型PEがcrossingなどの行動変化に関わっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は以下の研究計画の実施を予定していた。 1.胎生期低栄養ラットの胎仔および生後の脳の各部位のリン脂質組成変化の検討 2.同部位のリン脂質生合成酵素遺伝子の発現異常の検討 3.発現に変化のあった遺伝子のエピゲノム解析 本年度は、胎生期低栄養負荷を行ったラットの生後の脳において、上記1、2の検討を行い、胎生10.5日の胎仔については上記2の検討を行った。これらの結果、胎生初期の低栄養ストレスにより増減するリン脂質、および発現変化の生じたリン脂質生合成酵素遺伝子が特定できた。そこで、上記3に優先して、次年度の研究実施計画のうち、低栄養により変化したリン脂質(18:0p-22:6 PE)の増加が行動異常の原因となり得るかどうかの検討を行った。これにより、少なくとも18:0p-22:6 PEは行動変化を誘発することが示唆され、また、その作用部位は前頭前皮質である可能性が示唆された。本年度の研究計画のうち一部遂行できなかった実験はあるが、次年度の計画を優先して実施することにより、脳におけるリン脂質の組成変化と行動異常を関連づけることができ、本研究の重要な目的の1つを達成できた。したがって、計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では、PEをリポソームに組み込み投与したが、過去の研究からPEは直接脳に取り込まないとされている。しかしながら、投与したPEが脳で増加したことから、PEが直接取り込まれたのか、頭部と尾部に分解後に取り込まれ再合成されたのか、その動態を明らかにする必要がある。そこで、取込み経路の解析のため、一部研究計画を変更して以下の研究を推進する。 ・安定同位体標識PEを投与後、脳内で標識PEおよび分解あるいは再合成産物を検出して取込み経路や代謝経路を明らかにする。 本実験結果は、脳へのリン脂質ディリバリーの開発研究にも応用できる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
胎生期低栄養ストレスを与えたラットの脳内リン脂質組成解析により、行動に影響を与えるリン脂質として数種類の候補を同定できたため、次年度に計画していた「候補リン脂質の行動に対する機能の検討」を優先して行った。そのため、リン脂質生合成酵素遺伝子のエピゲノム解析を次年度に行うことになり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
リン脂質生合成酵素遺伝子のエピゲノム解析を次年度に行う。また、今後の研究推進方策にも記述したとおり、リン脂質の脳内への取込み経路の解析が必要となったため、重水素標識ホスファチジルエタノールアミンの投与実験にも使用する。
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