研究課題
私達はこれまでに、Sema4D欠失が、生後大脳皮質のオリゴデンドロサイト(OL)の発達を促進し、脳虚血傷害によるミクログリア活性を抑制しNO産生を抑制すること、OL前駆細胞やミクログリアの増殖を促進すること、を報告したがその機序は不明であった。本年度はiNOSの基質であるアルギニン基質を競合するアルギナーゼ1とその下流のポリアミン産生への影響を検討した。脳虚血傷害によって誘導されるアルギナーゼ1発現はミクログリアに限局し、Sema4D欠失による影響を受けなかったが、アルギナーゼ活性が亢進した。アルギニンの産生物のオルニチンから合成されるポリアミンは細胞増殖に必須である。Sema4D欠失が虚血傷害による脳ポリアミン産生増加を強め、ポリアミンが培養ミクログリアの増殖を亢進することを明らかにした。即ち、Sema4D欠失によるアルギナーゼ活性の亢進が、ポリアミン合成を促進し、梗塞脳の細胞増殖を亢進したと考えられる。Sema4DはLPS刺激による培養ミクログリアのNO産生を亢進したが、一方でErk1/2のリン酸化を抑制した。脳虚血傷害やLPS刺激はミクログリアで様々なサイトカインの発現を誘導する。これらはiNOSを誘導しNO産生を引き起こす。iNOS誘導にはErk1/2のリン酸化が関与するが、このリン酸化を阻害剤で抑制するとIFN-β発現とNO産生が増加した。一方、Sema4D添加はミクログリアのErk1/2リン酸化を抑制した。梗塞脳ではIFN-β発現が著しく上昇するが、Sema4D欠失マウスでは上昇しなかった。以上の結果から、Sema4D欠失によるNO産生抑制作用は、1)iNOSの基質のアルギニンを競合するアルギナーゼ活性の上昇によるNO産生能の低下、2)Sema4DによるErk1/2リン酸化抑制が無いため、IFN-βが誘導されないことによると考えられた。
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