研究課題
全前脳胞症(holoprosencephaly; HPE)は前脳と顔面正中部の形態形成が異常になる先天性奇形である。遺伝的原因として幾つかの染色体遺伝子座が明らかになりつつあるが、その発症機序はよく分かっていない。研究代表者は独自のスクリーニング法により、BMPシグナルを抑制して神経を誘導する因子としてジンクフィンガータンパク質Bizを単離し、BizがWntシグナルを促進して後方神経を形成することを見出した。興味深いことに、Bizと、その結合因子 (Biz associated protein, Bap) は、全前脳胞症の原因遺伝子座に位置する。本研究は、神経形成におけるBizとBiz結合因子(Bap)の機能的な相互作用、およびBMP・Wntシグナルネットワークに対する作用機序を解析し、全前脳胞症(HPE)発症機構の解明を目的としている。今年度は、全長型とC末欠損型のBiz、およびBapをコードするmRNAを、単独および複数組み合わせてツメガエル胚に顕微注入する過剰発現実験により、BizとBapの機能的な相互作用を調べる実験をおこなった。神経誘導や頭部形成に対する影響は、背腹軸および前後軸マーカー遺伝子の発現について、アニマルキャップ(未分化、かつ多分化能を持つ外胚葉組織片)を用いた定量的RT-PCRや、WISH法で調べることにより解析した。その結果、BizとBapの両者を組み合わせた場合、神経マーカーsox2や後方神経マーカーhoxb9の発現が強く誘導されることがわかった。また、全前脳胞症(HPE)の原因遺伝子と考えられている遺伝子群(shh, zic2, six3等)についてもBizとBapを共発現したときの影響を調べており、興味深い結果を得ている。したがって、BizとBiz結合因子(Bap)が協調して神経形成に関与していることが強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者は、神経形成におけるBizとBiz結合因子 (Biz associated protein, Bap)の機能的な相互作用、およびBMP・Wntシグナルネットワークに対する作用機序を解析し、全前脳胞症(HPE)発症機構の解明につなげることを目的としている。今年度は、全長型とC末欠損型のBiz、およびBapをコードするmRNAを、単独および複数組み合わせた条件でツメガエル胚に顕微注入する過剰発現実験をおこなった。神経誘導や頭部形成に対する影響は、背腹軸および前後軸マーカー遺伝子の発現について、アニマルキャップ(未分化、かつ多分化能を持つ外胚葉組織片)を用いた定量的RT-PCRや、WISH法で調べることにより解析した。その結果、BizとBapをそれぞれ単独で発現させた場合よりも、両者を組み合わせた場合に、神経マーカーsox2や、後方神経マーカーhoxb9の発現が、より強く誘導されることがわかった。また、全前脳胞症(HPE)の原因遺伝子と考えられている遺伝子群(shh, zic2, six3等)についてもBizとBapの過剰発現の影響を調べており、興味深い結果を得ている。したがって、BizとBapが協調して神経形成に関与していることが強く示唆された。申請当時は平成29・30年の計画としていた実験の中には、既に開始しているものもあり、おおむね研究は順調に進んでいる。
神経形成におけるBizとBiz結合因子(Bap)およびBMP・Wnt各シグナル調節因子の協調作用を解析するために、全長型とC末欠損型のBiz、Bap、そしてBMP、およびWntシグナルの調節因子群をコードするmRNA、あるいは、それぞれに対するアンチセンスモルフォリノオリゴをツメガエル胚に顕微注入し、過剰発現実験や機能阻害実験を各遺伝子単独および複数を組み合わせた条件で行う。アフリカツメガエルBapの機能を阻害するために、LとS両方の染色体由来の遺伝子を同時に確実に翻訳阻害することが期待できるモルフォリノオリゴを作製する。そのため、アフリカツメガエルL、S各染色体由来の遺伝子を単離し、塩基配列を確認する。神経誘導や頭部形成に対する影響は、背腹軸および前後軸マーカー遺伝子の発現について、アニマルキャップを用いた定量的RT-PCRや、WISH法で解析することによって調べる。また、全前脳胞症(HPE)の原因遺伝子と考えられている遺伝子群についても、その遺伝子発現への影響を調べる。さらに、エピトープタグを付加したBapを作成し、既に作成済みのBizやBMP・Wntシグナル調節因子群を様々な組み合わせで培養細胞に発現させた後、共免疫沈降法を用いて各タンパク質間の結合を解析する。また、発現量と構成因子の組み合わせを変化させて、構成因子間の結合様式(競合と相乗効果)を解析する。さらに、各タンパク質のドメイン欠失変異体を用いて各構成因子間の結合に必要な機能ドメインを同定し、BizとBapが各BMP・Wntシグナル調節因子を制御する作用機序を生化学的に明確にする。
アンチセンスモルフォリノオリゴを作製を予定していたが、塩基配列確認のため、アフリカツメガエルLとS両方の染色体由来の遺伝子を単離することに時間を要した。また、消耗品の購入に関して、各社サンプルの比較検討が必要だったため、年度内の購入に間に合わなかった。
アフリカツメガエルBapの機能を阻害するために、LとS両方の染色体由来の遺伝子を同時に確実に翻訳阻害することが期待できるモルフォリノオリゴを作製する。そのため、アフリカツメガエルL、S各染色体由来の遺伝子を単離し、塩基配列を確認する。神経誘導や頭部形成に対する影響は、背腹軸および前後軸マーカー遺伝子の発現について、アニマルキャップを用いた定量的RT-PCRや、WISH法で解析することによって調べる。また、全前脳胞症(HPE)の原因遺伝子と考えられている遺伝子群についても、その遺伝子発現への影響を調べる。および、消耗品購入を予定している。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Developmental Biology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Zoological Science
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http://home.hiroshima-u.ac.jp/amphibia/main/InstAmphBiol/yan_jiuto_jiao_yu.html