研究課題/領域番号 |
16K08454
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
村上 志津子 順天堂大学, 医学部, 非常勤助教 (20255649)
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研究分担者 |
鈴木 ちぐれ 順天堂大学, 医学部, 助教 (40536629)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 嗅プラコード / 嗅神経 / 細胞移動 / ガイドポスト細胞 / 一次嗅覚路 / ニワトリ胚 |
研究実績の概要 |
嗅覚器原基の嗅プラコードからは嗅細胞以外に間葉組織中へと移動する細胞が生じる。その一部は視床下部へ移動し生殖機能を司るGnRHニューロンとなる。ニワトリ胚では、嗅神経伸長やGnRHニューロン移動以前に移動細胞がプラコード上皮と終脳間に細胞索を形成することから、初期の嗅プラコード由来移動細胞が嗅覚路形成のガイドポストとして関与する可能性が想定された。この仮説を検証するために、本年度は初期嗅プラコード由来移動細胞の特性と移動動態の観察および初期細胞索の破壊実験を行い、次の結果を得た。①初期嗅プラコード由来移動細胞はポリシアル酸(PSA)、成長関連タンパク質43(GAP43)、HuC/Dを発現するが、それ以外にリーリンを特異的に発現することが判明した。細胞索の形成は、st15から始まりst17-18に原型ができあがることを確認した。②初期移動が始まる2.5日胚(E2.5、st15-16)の嗅プラコード上皮にGFP発現ベクターをエレクトロポレーションによって導入し、GFP標識細胞を経時的に追跡した。GFP標識細胞は48時間後(E5)には嗅神経と終脳の結合部位に細胞集塊を形成した。この領域をE6で観察すると、GFP 標識細胞の分布は内・外側全体にわたっていた。一方、嗅神経伸長開始のE3.5(st21-22)でGFP標識し、E6で嗅神経と終脳の結合部位を調べると、後期GFP標識細胞はGnRHニューロンの移動経路である内側に偏在した。早期嗅プラコード由来移動細胞は嗅神経投射部位に定着し、嗅神経投射のガイドポストとなっている可能性を示唆する。③極細ガラス針を用いてst18細胞索の破壊を行ない、3日後で調べると、嗅神経やGnRHニューロンは終脳には到達せず、間葉組織中に集塊を形成した。嗅プラコード由来細胞索は初期嗅神経伸長やGnRHニューロンの移動に必須であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.嗅プラコード由来移動細胞はリーリンを特異的に発現することが判明したことから、初期の嗅プラコード由来移動細胞はニューロンに分化した細胞であることがよりはっきりとした。リーリンは大脳皮質形成過程のパイオニアニューロンであるカハール・レティウス細胞に発現する分子であり、嗅プラコード由来移動細胞の役割を考える上で有用な知見である。 2.E2.5細胞索の破壊実験から、細胞索が嗅神経投射とGnRHニューロンの脳への移動に必須であることが判明し、早期嗅プラコード由来移動細胞の重要性が明らかとなった。細胞索という構造の破壊であるため、最初に嗅プラコードから移動する細胞(パイオニアニューロン)がガイドポスト細胞となるかどうかについては、今後調べる必要がある。 3.嗅プラコード由来移動細胞のGFP標識追跡実験から、初期の嗅プラコード由来移動細胞の一部はガイドポスト細胞として嗅神経の投射部位に定着することが示された。このことは、予備実験で得ているE6.5の嗅神経投射部位に観察される神経線維マーカーに染まらない細胞塊との関連性を予測させる。 4.E6.5細胞塊の細胞特性を調べる実験は滞っているため、平成29年度は様々な分子マーカーの発現パターンを調べる実験を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
嗅覚路形成におけるガイドポストとしての嗅プラコード由来移動細胞の役割についての検証をさらに推進する。以下の4つを行う。 (1)初期細胞索の残存組織であると想定した神経線維マーカーを発現しないE6.5細胞塊の細胞特性や発現パターンの詳細を明らかにする。予備実験では、細胞塊が観察されない個体もあり、発現時期が限定されている可能性がある。より細かな発生段階を追ってその発現時期を明確にする。細胞特性については、さまざまなニューロンマーカーの発現を免疫組織化学染色やin situ hybridizationの手法により網羅的に調べる。また、嗅覚シュワン細胞のマーカーであるsox10などグリアマーカーの発現も同時に調べる。 (2)初期細胞索(E2.5細胞索)の構造は嗅神経投射とGnRHニューロンの脳への移動に必須であることから、最初に移動する嗅プラコード由来細胞の‘パイオニアニューロン’がより重要である可能性を想定した。極細ガラス針よりも細いタングステン線針を用いて、細胞索原型が完成するst18細胞索のより終脳側に位置する細胞だけを限定して破壊し、嗅神経伸長やGnRHニューロン移動に対する影響を調べる。 (3)E2.5細胞索の分子機能を調べる。細胞索の細胞表面に発現するポリシアル酸(PSA)は、細胞間の接着状態を調節し、神経突起伸長やニューロン移動に関与していることが知られている。PSA特異的消化酵素であるEndo-N(endoneuraminidase-N)をE2.5の嗅プラコード近傍の間葉組織に直接投与し、細胞索のPSA分子の機能阻害を行い、嗅神経伸長やGnRHニューロン移動に対する影響を調べる。 (4)E2.5細胞索先端と終脳との結合部位の微細構造を電子顕微鏡レベルで観察する。細胞索先端は軟膜上なのか、貫いて終脳へと進入しているのかを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
GFP遺伝子導入による細胞標識実験の成功率が低く、データを得るために時間がかかり、他の実験計画の開始が遅れた。そのため、実験動物を含む消耗品の支出が計画予定よりも少なくなり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度研究計画を継続するために必要な実験消耗品の購入に加えて、現在得ている研究成果の英文雑誌への投稿準備を進めており、そのための英文校閲代、論文投稿料として使用する予定である。
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