研究課題
腸管のリンパ濾胞上皮に存在するM細胞は、高分子の管腔内抗原を取り込む能力を持ち、粘膜免疫応答の開始に働く細胞である。申請者のこれまでの研究からM細胞は段階的な成熟過程を経ることで、最終的に抗原取り込み能力を獲得することを明らかにしている。28年度は濾胞上皮のmRNAデータベースから、発現量の高い転写因子候補をピックアップし、in situ hybiridization法によりmRNAの発現部位の同定を行った。その結果、2つの転写因子A、BがM細胞発現分子であるTnfaip2とGp2の発現部位と一致していた。濾胞上皮は絨毛上皮細胞と同様に陰窩基底部の組織幹細胞から分化、増殖し押し出されるようにして、濾胞頂部もしくは絨毛頂部へと移動していく。転写因子A、Bともに濾胞陰窩の増殖帯近傍から濾胞の頂部にかけての発現が認められることから、M細胞分化初期から後期にかけて継続して発現する分子であると想定された。このことは、初期の転写因子Spi-Bとも発現部位が一致することからも確認できた。転写因子A、Bについて免疫抗血清を用いて免疫組織染色を行ったところ、タンパク質レベルにおいても両者のM細胞における発現、細胞核への局在が確認できた。M細胞は腸管以外の粘膜組織にも存在する。マウスの鼻腔奥の鼻咽頭関連リンパ組織はヒト扁桃に相当するリンパ性器官である。鼻咽頭関連リンパ組織における転写因子Aの免疫染色を行ったところ、M細胞における発現が確認できた。このことから、転写因子Aは腸管に限定されず粘膜組織全般に共通するM細胞発現分子であると考えられる。これまで、M細胞分化を制御する転写因子はRelBとSpiBが知られているのみであった。本研究によって、より詳細なM細胞分化制御機構が明らかになると期待される。
2: おおむね順調に進展している
免疫組織染色に適した免疫抗血清の作製に成功し、タンパク質レベルでの解析が行えたことで、詳細な解析が行えるようになった。さらに、転写因子Aについては欠損マウスの導入を行い、機能解析を開始することができている。
欠損マウスの機能解析を行い、M細胞分化における転写因子Aの役割を明らかにする。作成した免疫抗血清を用いて、転写因子AのChiP-seq解析、ゲルシフトアッセイなどにより、転写制御部位、標的遺伝子の解析を進める。
人件費として見積もっていた3月分の予算が、予定より出勤数が減ったため余った。
次年度の消耗品で使用する予定
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
American Journal of Physiology-Renal Physiology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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