研究課題/領域番号 |
16K08466
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
上坂 敏弘 神戸大学, 医学研究科, 講師 (90304451)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Retチロシンキナーゼ / 変異体ノックインマウス / 恒常的活性化チロシンキナーゼ / 神経栄養因子GDNF / 腸管神経前駆細胞 |
研究実績の概要 |
多発性内分泌腫瘍症の患者において報告されているRetチロシンキナーゼの恒常的活性化を示すシスティンリッチドメインの変異体において、本研究に用いたRET(C618F)はこれまでに報告されている恒常的活性化を示す他のRET変異体とは異なり、リガンドである神経栄養因子GDNFに対して応答性を示し、かつ一部はリガンド非依存的に細胞内で活性化することが明らかになった。またRET 変異体をノックインしたマウスにおいても、これまでに報告されているものは、Ret欠損マウスと表現型が似ており、つまり、リガンド応答性がないため、恒常的活性化による機能獲得の表現型を見ることができていないが、本研究において作製したRET(C618F)ノックインホモマウスは、Retが必須である腸管神経系や腎臓の発生を誘導した。興味深いことに、腸管神経前駆細胞の移動は遅れていた。同様の表現型はRETシグナル経路の抑制因子Sprouty2のノックアウトマウスにおいても認められている。このことは、RETシグナルは腸管神経前駆細胞の移動に欠かせないが、その一方で過剰な活性化は移動を遅らせることを示唆している。そして細胞移動は送らせるが、その後結果として細胞増殖を有意に高めて、結果的に腸管ニューロンの増大を引き起こすことが明らかになった。 一方ヒルシュスプルング病患者においてはRET遺伝子の発現低下が関連していることが報告されている。RET(C618F)変異体遺伝子座を2コピーから1コピーに減少させたところ、細胞増殖の有意な増大は見られなくなり、腸管遠位部の神経叢の欠損が認められた。しかし、単純なRetのレベル低下で見られる表現型とは異なり、腸管における前駆細胞の移動先端部においてニューロンへの分化が早期に認められることから、分化誘導の促進により、前駆細胞の移動が止まってしまっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RET(C618F)ホモ変異体はRet欠損マウスを異なり、腸管ニューロンの有意な増大が認められ、機能獲得型の表現型が得られた。一方RET(C618F)1コピーだけ有するマウスにおいて表現型が大きく異なり、機能消失型の表現型に似たものであった。通常Retが1コピーになっても腸管神経系の欠損は見られない。このことからRetの活性化レベルの上昇することによって生じる腸管神経叢の欠損を示す新たな動物モデルが得られたと期待される。 一方、RET(C618F)ホモ変異体は腎臓も見かけ上正常に形成されるのにかかわらず、生後すぐに致死であった。この原因はまだわかっておらず、また生後の解析が困難なため、がん化が期待される甲状腺についても検証できていない。
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今後の研究の推進方策 |
Retのホモ変異体および1コピーの変異体マウス由来の神経前駆細胞を単離して培養系において、それぞれのRET下流のシグナル系を解析するための実験系を確立し、プロテオミクス解析により探索を進める。 RET(C618F)変異体1コピーのマウスは稀にスキップ型の腸管神経叢の表現型を示す。発生過程を追うことでスキップ型の神経叢の形成メカニズムに迫りたい。また腸に投射する外来神経線維のシュワン細胞系譜からのニューロン新生についても検証していく。
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