研究課題/領域番号 |
16K08467
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
林 利憲 鳥取大学, 医学部, 准教授 (60580925)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イベリアトゲイモリ / 心臓再生 / 心筋細胞 / cyclin |
研究実績の概要 |
本研究は、イモリとマウスの心臓において、その再生能力に違いが生じる機構を解明することを目指すものである。当該年度は、昨年度までに作製してきた、心筋細胞の増殖に重要な役割を果たすcyclin D1遺伝子の発現を蛍光タンパク質により可視化できるマウスとイモリを用いて、その詳細な発現パターンを解析することができた。さらに、イモリの心筋細胞にcyclin D1遺伝子を強制発現させて、その増殖に与える影響を調べるためのイモリについて、より効率的な作製方法を確立することができた。 これらに加えて、研究代表者自らが確立した、新規モデル動物であるイベリアトゲイモリを用いた研究を推進するために、複数のグループとの共同研究により、遺伝情報の整備を行い、イベリアトゲイモリの持つタンパク質の98%以上をカバーすると考えられるデータベースを構築した(論文投稿準備中)。このデータベースは、イモリ心臓の再生過程における遺伝子発現の変化を解析するために不可欠なリファレンスとなる。さらに、再生に関わることが期待される遺伝子を操作するため、広島大学のグループとともに、CRISPR/Cas9を介した遺伝子ノックアウト法の構築を行った(論文投稿中)。さらに複数の研究グループと共同で、イベリアトゲイモリのための研究リソースを提供するポータルサイト(Webサイト)の試運用版を作成することができた。このWebサイトについては、関係する論文の受理と同時に公開する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの本研究により、cyclin D1上流側の約10 kbの配列のうち、実際の制御機能に重要であることが示唆される領域を絞り込むことができた。これらの配列について、イモリとマウス、それぞれの転写制御候補配列を、イモリ個体とマウス個体双方に導入する実験を進めてきたことで、2つの種間におけるcyclin D遺伝子の転写制御機構の比較も同時に進めることができた。さらにこれらの配列の下流に蛍光タンパク質を繋いだコンストラクトを導入したイモリとマウスを用いて、その発現パターンの解析も行ってきた。 上述の成果に加えて、イモリの心臓再生過程における遺伝子発現の変化を解析する上で不可欠なリファレンスとなるデータベースを作成できたので、次年度以降は、これを利用してより詳細な遺伝子発現パターンの変化を明らかにすることができる。また、CRISPR/Cas9システムを介した遺伝子ノックアウト法も起立できたので、データベースから得られた情報をもとに、関連が予想された遺伝子を破壊して機能を解析するまでの時間を大幅に短縮できるようになった。さらに、心臓再生に対するメカニカルストレスの影響を調べるための実験系(手術法)も開発することができた。 これらのことから、計画全体の進捗状況としては、概ね順調に進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
まず、これまでの研究により構築したイベリアトゲイモリ遺伝子のデータベースを利用しながら、イモリの心臓再生過程における細胞周期関連遺伝子と細胞外シグナル関連遺伝子の発現パターについて、より詳細な解析を行うことで、心臓再生能力との関連を示す。合わせて、イモリ心筋細胞に対するcyclin D1遺伝子の強制発現実験を行い、細胞増殖に関わる機能を明らかにする。次に、昨年までに確立したイモリ心室内に圧力を生じさせる実験系を用いて、メカニカルストレスがイモリの心筋細胞の増殖や再生にどのような影響を与えるのかを解析する。また、イモリの心臓を様々な細胞増殖因子の存在下で培養することで、心臓再生を促進する因子を探索する。これの研究から、イモリの心臓再生の鍵となっている遺伝子の候補を選び出し、そのノックアウトイモリを作製することで、遺伝子の機能を明らかにする。 加えて、これまでの様々な研究により、イモリ心筋細胞の増殖能力を支える機構を明らかにするためには、心筋細胞を単一に解離した上で解析することがブレークスルーとなることが示唆されている。そこで、イベリアトゲイモリの心筋細胞を単一細胞の状態に解離する手法の開発にも挑戦する計画である。 また、研究計画の最終年度となるため、これまでの研究成果を取りまとめるとともに、それら成果を広く発信することに力を入れる。特に、学会における成果発表と学術論文の発表に力を入れる。このような方針に基づき、今年度の計画全体を推進する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、遺伝子改変イモリの作製と、作製したイモリの遺伝子型を調べるための解析が中心となったため、実験試薬をはじめとする消耗品購入に関わる支出が減少した。このような理由から、予算をより効率的に使用する為に、次年度使用額とすることとした。 今年度は、昨年度までに作製したイモリを使用して、遺伝子発現パターンの変化を調べる解析や、心筋細胞の培養実験を重点的に行う。このための実験試薬を購入する。また、研究計画の最終年度となるため、成果を広く公表するための論文出版や学会参加に関わる費用に重点的に予算を配分する。このように、最終年度使用額についても有効かつ効率的に使用する。
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