研究課題/領域番号 |
16K08470
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
江角 重行 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 講師 (90404334)
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研究分担者 |
浜崎 禎 熊本大学, 医学部附属病院, その他 (60433033)
西村 方孝 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (80613398)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 視床下部 / 摂食中枢 / 臨界期 / 補償機構 / 細胞系譜 / 摂食 |
研究実績の概要 |
拒食症及び過食症の総称である摂食障害は心理的ストレスや環境的要因、遺伝的背景などの複合的な要素により生じる。中枢を原因とする摂食障害は一卵性双生児の発症一致率が高いことや家族集積性の研究から遺伝的な関与が示唆されているが、その発症メカニズムは明らかになっていない。申請者は、これまでの研究を踏まえ( Sokolowski K, Esumi S et al., 2015,Neuron)、視床下部摂食中枢神経回路の補償機構や臨界期の分子機構を明らかし、その破綻によって摂食障害が生じるメカニズムを解明することを目的として研究を進めている。平成29年度は、視床下部摂食中枢の補償機構を制御する神経回路を探るため、GAD67-CrePR; floxed-VGAT; Rosa26-floxed-tdTomatoマウスや、Nkx2-1-CreER: Rosa26-floxed DTR、Nkx2-1-Cre; floxed-VGAT等を作成しその細胞系譜や、ラベルされた細胞の形態を解析した。残念なことにNkx2-1-Cre; floxed-VGATマウスのホモ型は出産直後に死亡するため詳細な解析を行うことができなかったが、VGATを欠損させたGABAニューロンにおいては軸索や樹状突起の異常が認められた。現在、この形態異常の詳細な解析を進めている。平成28年4月に起きた熊本地震のため、研究に使用するマウスの入手や、掛け合わせが遅れたため、本年度も全体的な研究計画が遅れてしまった。平成30年度は摂食機構の臨界期や補償機構を探るため、上記のマウスにジフテリア毒素や、Mifepristoneを投与することで時間依存的に視床下部神経細胞を不活性化または、除去して解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの大脳皮質などの臨界期の研究ではGABAニューロンが重要な役割を担っていることがわかっている。また、最近の報告では、視床下部のストレス応答にGABAニューロンの可塑性が強く関係している。そのため、平成29年度は、視床下部摂食中枢の補償機構を制御する神経回路を探るため、視床下部におけるGABAニューロンの発生や機能に着目して研究を進めた。 具体的には、視床下部で見られる神経回路の補償機構や臨界期に、GABAニューロンも関係していると考え、視床下部におけるGABAニューロンの機能を探るため、GABAニューロンの最重要な生理機能であるGABAの分泌を不全にし、機能不全に陥ったGABAニューロンの動態の解析を試みた。具体的には、GABAニューロンでGABAを放出するために必須であるvesicular GABA transporter (VGAT)を floxed-VGAT マウスを用いることで時期特異的に一部の細胞で欠損させて解析を行った。予備的な実験で、Nkx2-1-Cre; floxed-VGATマウスのホモ型は出産直後に死亡することが明らかになったため、GAD67-CrePR; floxed-VGAT; Rosa26- flexed- tdTomatoマウスを用いることで、時期特異的に大脳皮質GABAニューロンの一部を赤色蛍光色素でラベルし、さらにVGAT を欠損させたところ、一部の神経細胞において、軸索や樹状突起の異常が認められた。今後は、この形態異常を詳細に解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は共同研究者とともに予備的な実験を行い、Nkx2-1-CreER;R26-floxed DTRマウスを作成し、胎仔期にtamoxifenを投与し組換え起こした後、生後0日目にジフテリア毒素を投与して細胞死を誘導できることを確認した。さらに、共同研究者からの報告では、Gsh2-Cre;R26-floxed DTRを用いて同様の実験を行うと、ジフテリア毒素投与後にすぐに投与マウスは死亡することを確認した。 そこで、多くの神経細胞の除去によるマウスの致死を避け、視床下部特異的に組換を起こさせるため、Nkx2-1-CreERマウスとRosa26-floxed DTRマウスをかけ合わせ、Nkx2-1-CreER: Rosa26-floxed作成し解析を行う予定である。生後間もなく大脳皮質のNkx2-1の発現は低下するが、視床下部の発現は維持される。そのため、生後期にtamoxifenを投与し、視床下部でのみ組換を起こさせ、異なった日齢でジフテリア毒素を投与することで、細胞死を誘導し、視床下部Nkx2-1陽性細胞を減少させることができると考えている。平成30年度は、このマウスを用いて時期特異的に視床下部のNkx2-1系譜細胞の一部または全体を除去またはGABA分泌不全にして、摂食に関わる影響を解析することで、視床下部摂食中枢の臨界期と補償機構の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年4月に起きた熊本地震のため、研究に使用するマウスの入手や、掛け合わせが遅れたため、本年度も全体的な研究計画が遅れてしまった。また、投稿を予定していた論文に必要なデーターの解析に予想以上の時間が掛かったことが研究が遅れた原因である。具体的な使用計画としては、RNA-seq解析は試薬代が高価であるため、試薬購入費用に使う予定である。また、平成30年度に研究成果を査読論文に投稿予定であったが、実験計画の遅れなどから、平成30年度に投稿することになった。このため論文投稿、公開のための予算に使う予定である。
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