研究実績の概要 |
我々は視床下部摂食中枢神経回路の補償機構や臨界期の分子機構を明らかし、その破綻によって摂食障害が生じるメカニズムを解明することを目的として研究を進めている。これまでの報告で大脳皮質の発達過程における臨界期可塑性にはGABAニューロンが重要である(Hensch,2005, Nature Rev Neurosci.) (Katagiri H et al,2007, Neuron)ことがわかっている。そこで、我々は視床下部で見られる神経回路の補償機構や臨界期においても、GABAニューロンが関係していると考え、平成30年度は、視床下部摂食中枢の補償機構を制御する神経回路におけるGABAニューロンの機能を探るため遺伝子改変マウスを用いて解析を行った。具体的には、GABAニューロンでGABAを放出するために必須であるvesicular GABA transporter (VGAT)を floxed-VGAT マウスとNkx2-1-Cre; floxed-VGATマウスを組み合わせ、大脳皮質と視床下部のみ特異的にGABAニューロンのGABA分泌を停止させて解析を行った。その結果、VGAT欠損マウスで認められる口蓋裂や臍帯ヘルニアは生じないにも関わらず、生後2日目には全て死亡することが明らかになった。生後間もない時期には、全てのマウスの胃にミルクが確認できることから、ホモマウスの致死の原因は視床下部のGABAニューロンの機能不全によると考られる。そこで、その原因を探るため生後0日目のNkx2-1-Cre; floxed-VGAT ホモ/ヘテロマウスの視床下部のRNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いて変動する遺伝子を解析した。その結果、"neuron development", "axon guidance"などに関わる分子群に変動が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、臨界期形成にはGABAニューロンが重要な役割を担っていることがわかっている。(Morishita H, Hensch TK. 2008,Cur. Opi. in Neurobiol.) また、最近の報告では、視床下部のストレス応答にGABAニューロンの可塑性が強く関係している(Inoue W et al.,2013, Nat. Neurosci.)ことが示されている。平成30年度は、視床下部で見られる神経回路の補償機構や臨界期に、GABAニューロンも関係していると考え、生後0日目の視床下部でGABA分泌を停止させたNkx2-1-Cre; floxed-VGAT ホモ/ヘテロマウスのRNAを用いて次世代シークエンサー解析を行った。その結果、"neuron development(RPGR, CCK, NR4A2, CXCL12, TBR1), "axon guidance(EPHA5, ROBO1, UNC5C, CXCL12, SLIT2)"などの遺伝子群に変動が認められた。興味深いことに、これらの候補には臨界期制御に関わる可能性のある遺伝子群が含まれていた。今後は、この変動が認められた遺伝子群の発現動態を免疫組織化学染色やリアルタイムPCR, In situ Hybridization(ISH)法によって解析することで、補償機構に関わる分子や領域を明らかする。さらにc-fosなどとの免疫組織化学染色で摂食行動との関連を解析し、平成31年度中に論文を投稿する予定である。
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