研究課題
組織幹細胞はある程度の多分化能を持ち、発生過程や細胞死、損傷組織の再生において、新しい細胞を供給する役割を持つと考えられている。下垂体前葉は、ホルモンの合成・分泌を行い、成長、生殖、代謝、行動など多くの生体機能の制御に関与している重要な内分泌器官である。5種類のホルモン産生細胞と、非ホルモン産生細胞であるS100βタンパク質陽性細胞(S100β陽性細胞)と、血管系の細胞から構成される。申請者は、ラット下垂体前葉内S100β陽性細胞は幹細胞マーカーであるCXCR4を発現することを報告している。本研究では、1)CXCR4陽性を示すS100β陽性細胞が細胞表面抗原であるCD24を発現することを組織学的手法及び分子生物学的手法により同定した。そして、CD24抗体とpluriBead® Cell Separation kitを使うことで簡単にラット下垂体前葉からCD24/S100β陽性細胞を単離することに成功した。そして単離した細胞がSOX2など種々の幹細胞マーカーの高い発現を示した。この結果は学会にて発表し、現在論文執筆中である。2)S100β陽性細胞特異的にGFPを発現するトランスジェニックラットの胎生期下垂体を観察することで、S100β陽性細胞の一部が下垂体前葉外から血管形成と共に下垂体前葉に侵入して定着するという新たなS100β陽性細胞の起源を明らかにし、論文掲載された。3)膜タンパク質であるCD90が下垂体前葉においてThyrotropeで発現することを明らかにし、さらにpluriBead Cell Separation kitと抗体を使用することで簡単にThyrotropeを純化・培養できることを明らかにし、論文掲載された。現在単離したCD24/CXCR4発現細胞の分化誘導をin vitroの系で行っている。
2: おおむね順調に進展している
組織幹細胞はある程度の多分化能を持ち、発生過程や細胞死、損傷組織の再生において、新しい細胞を供給する役割を持つと考えられている。下垂体前葉は、5種類のホルモン産生細胞と、非ホルモン産生細胞であるS100βタンパク質陽性細胞(S100β陽性細胞)と、血管系の細胞から構成される。S100β陽性細胞はheterogeneityが高く、その中のサブポピュレーションが下垂体前葉組織幹細胞の可能性が示唆されてきた。申請者は、ホルモン産生細胞の1つであるThyrotropeの細胞純化・培養に成功した。そして幹細胞性のS100β陽性細胞の単離を膜タンパク質の発現とその抗体、市販のキットを使用し成功した。さらにその単離した細胞が種々の幹細胞マーカーを発現することを明らかにした。そして単離した細胞は血管網様構造を形成すること、そのシグナル伝達を既に明らかにしている(未発表)。既に2報の投稿論文が掲載されており、研究業績から鑑みても当初の計画通りに進展していると判断できる。
平成28年度に引き続いた解析を行う。特に幹細胞性S100β陽性細胞の血管網様構造への分化過程とその制御機構のさらなる詳細な解明を目指し、これまで蓄積されてきたマイクロアレイの解析結果を基に、発現遺伝子の発現解析、それらの組織学的観察、最終的に高確率の分化誘導を成功させる。また当初単離したCD9/CXCR4発現細胞の単離からホルモン産生細胞への分化誘導に挑戦する。具体的には、ラット下垂体前葉細胞をコラーゲン処理によりバラバラにしたのち、CD9抗体とpluriBeads kitを用いてCD9発現細胞を単離し、3次元培養(ハンギングドロップ)によって培養する。そこに多種の成長因子などを投与し、ホルモン産生細胞への分化を組織学的に観察する。さらに遺伝子発現、ホルモン分泌を解析する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
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