研究課題
組織幹細胞はある程度の多分化能を持ち、発生過程や細胞死、損傷組織の再生において、新しい細胞を供給する役割を持つと考えられている。下垂体前葉は、ホルモンの合成・分泌を行い、成長、生殖、代謝、行動など多くの生体機能の制御に関与している重要な内分泌器官である。5種類のホルモン産生細胞と、非ホルモン産生細胞であるS100βタンパク質陽性細胞(S100β陽性細胞)と、血管系の細胞から構成される。ラット下垂体前葉ではS100β陽性細胞の85%が幹細胞マーカーであるSOX2を発現する。本研究では、SOX2陽性を示すS100β陽性細胞が、細胞表面抗原であるCD9を発現することを組織学的手法及び分子生物学的手法により同定した。そして、CD9抗体とpluriBead® Cell Separation kitを使うことで簡単にラット下垂体前葉からSOX2陽性かつS100β陽性細胞(SOX2/S100β陽性細胞)を単離することに成功した。そして単離した細胞がCXCR4やOCT4、CD24など種々の幹細胞マーカーの高い発現を示した。このSOX2/S100β陽性細胞を細胞外マトリクスの一種であるラミニンコート上でウシ胎児血清を含む培養液で培養すると、BMPシグナリングを介して、内皮細胞へ分化することを明らかにした。さらに、血管が過形成されるプロラクチノーマのモデル動物を作成し、その下垂体前葉においてSOX2/S100β陽性細胞が減少し、内皮細胞が増加したことから、生体内においてもSOX2/S100β陽性細胞が内皮細胞へと分化している可能性が示唆された。この結果は学会にて発表し、Scientific Reportsにアクセプトされた。現在単離したSOX2/S100β陽性細胞のホルモン産生細胞への分化誘導をin vitroの系で行っている。
2: おおむね順調に進展している
組織幹細胞はある程度の多分化能を持ち、発生過程や細胞死、損傷組織の再生において、新しい細胞を供給する役割を持つと考えられている。下垂体前葉は、5種類のホルモン産生細胞と、非ホルモン産生細胞であるS100βタンパク質陽性細胞(S100β陽性細胞)と、血管系の細胞から構成される。S100β陽性細胞はheterogeneityが高く、樹状細胞様のもの、アストラサイト様、上皮細胞様、そして、前葉組織幹細胞の可能性が示唆されてきた。申請者は、この幹細胞性のS100β陽性細胞がCD9という膜タンパク質を発現することを明らかにした。そしてCD9抗体と市販のキットを使用することで、幹細胞性のS100β陽性細胞の単離に成功した。そして単離した細胞は血管網様構造を形成すること、そのシグナル伝達はBMPであることを明らかにした。この結果は、すでに論文としてアクセプトされており、研究業績から鑑みても当初の計画通りに進展していると判断できる。
平成29年度に引き続いた解析を行う。特に幹細胞性S100β陽性細胞のホルモン産生細胞への分化過程とその制御機構の解明を目指し、これまで蓄積されてきたマイクロアレイの解析結果を基に、発現遺伝子の発現解析、それらの組織学的観察、最終的に高確率の分化誘導を成功させる。具体的には、ラット下垂体前葉細胞をコラーゲン処理によりバラバラにしたのち、CD9抗体とpluriBeads kitを用いてCD9発現細胞を単離し、3次元培養(ハンギングドロップ法やマトリゲル内包埋法)によって培養する。そこに様々な成長因子などを投与し、ホルモン産生細胞への分化を組織学的に観察する。さらに遺伝子発現、ホルモン分泌を解析する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Scientific Reports
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