女性ホルモンエストロゲンは、卵巣で産生され、標的細胞のエストロゲン受容体(ER)を介して作用することにより、生殖系の調節に働き、脳では、脳の性分化や性行動の鍵を握る因子である。また骨組織では、骨芽細胞による破骨細胞分化の抑制、破骨細胞のアポトーシス促進により、骨の維持・形成に働く。最近、脳特異的ERαノックアウト(KO)マウスの骨の研究から、脳エストロゲンが骨吸収促進に働くことが報告された。この研究結果は、エストロゲンの骨への作用が、末梢と脳とで逆の作用をするという、これまでにない新しい知見を提示しているが、脳エストロゲンによる骨代謝制御の中枢は特定されておらず、作用機序も明らかでない。申請者らはステロイド合成の転写因子Steroidogenic factor 1(SF-1) の役割を研究している。本研究は、我々の作製した2種類のSF-1KOマウス、すなわち全身的にSF-1遺伝子を破壊した「グローバルSF-1KO マウス」を全身にエストロゲンのない動物モデル、「脳特異的SF-1KOマウス」を脳でエストロゲンの作用しない動物モデルとして利用することにより、エストロゲンの骨代謝への全身的作用と脳での局所的作用の違いを明らかにし、脳エストロゲンによる骨代謝制御の分子機構の解明を目指すものである。2種類のノックアウトの作成と解析を開始したが、「グローバルSF-1KO マウス」については、作成、維持ができないことから研究を中止した。「脳特異的SF-1KOマウス」については、成熟後まで維持することができ、個体の基本データ、およびCTによる骨の解析を進めており、データが得られている。仮説に基づいた予想通り、「脳特異的SF-1KOマウス」の骨密度が正常に比べて高まる傾向が認められた。今後さらにデータを蓄積し、成果をまとめて発表する予定である。
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