研究課題/領域番号 |
16K08478
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
湯川 和典 名城大学, 薬学部, 教授 (20301434)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳梁 / 脳梁欠損症 / パイオニア軸索 / 軸索ガイダンス / セマフォリン / ニューロピリン / プレキシン |
研究実績の概要 |
神経軸索の伸長を導くセマフォリンの受容体PlexinA1を欠損するBALB/c系統マウスでは、脳梁の完全欠損が高頻度(生後2日齢で90%)に生じる。帯状回から最初に脳梁部正中線に向かい伸長するパイオニア軸索の伸長方向を確認するため、パイオニア軸索に発現するニューロピリン1(Npn1)を免疫組織化学にて解析を行った。その結果、胎生16.5日齢(E16.5)と17.5日齢(E17.5)のPlexinA1欠損Npn1陽性軸索は、野生型と同様に帯状回から正中線に向かい伸長していることが判明した。さらに、E17.5の野生型Npn1陽性軸索の約70%が正中線を交差していたのに対し、PlexinA1欠損Npn1陽性軸索で正中線を交差していたものは約15%と有意に少なかった(野生型11匹、PlexinA1欠損12匹)。また、PlexinA1欠損Npn1陽性軸索は、その大部分で正中線直前のところで伸長の停止が認められた。以上、PlexinA1は、Npn1陽性軸索の正中線交差の段階において重要な役割を担うことが示唆された。 E15.5のカルレチニン(CR)陽性ニューロンの分布は、軸索誘引因子Sema3Cの発現分布と一致することが判明した。E15.5とE17.5の野生型とPlexinA1欠損型の両遺伝子型において、CR陽性ニューロンの分布には大きな差異は認められなかった。Npn1陽性軸索は、野生型とPlexinA1欠損型ともにCR陽性ニューロンに向けて伸長していることが分かった。そのため、CR陽性ニューロンの存在によりNpn1陽性軸索が正中線に向けて伸長し、正中線方向への軸索伸長の決定にはPlexinA1は必須ではないことが示唆された。従って、パイオニア軸索が正中線を交差する段階において、種々の軸索ガイダンス因子との相互作用を介してPlexinA1が重要な作用を発揮することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1, 脳梁発達におけるセマフォリンと受容体の局在マップ作り (1)セマフォリンと受容体タンパクの局在については、胎生15.5日齢でカルレチニン陽性細胞におけるSema3Cの共局在と、パイオニア軸索におけるニューロピリン1(Npn1)の局在を確認した。しかし、Sema3C以外のセマフォリンのタンパク局在は不明のままである。また、PlexinA1は帯状回で発現が確認されたが、パイオニア軸索が正中線を交差する段階で軸索表面に発現しNpn1と共局在するか確認する必要がある。 2, パイオニア軸索の伸長方向の追跡 (1)免疫組織化学とカルボシアニン色素(diI)注入によるパイオニア軸索路の追跡:抗Npn1抗体を用いる免疫組織化学でパイオニア軸索の伸長方向を解析できた。しかし、胎生17.5日齢で正中線領域におけるSema3Cとパイオニア軸索の位置関係を明らかにすることはできていない。さらに組織透明化と免疫組織化学の組み合わせ実験にまで至っていない。胎生17.5日齢帯状回へのdiI注入によるパイオニア軸索の追跡では、野生型パイオニア軸索の正中線交差と対側半球への伸長の確認ができた。今後はPlexinA1欠損パイオニア軸索の伸長を追跡し野生型と比較する必要がある。 (2)帯状回外移植片の軸索伸長に及ぼすSema3C作用の解析:Sema3CのPlexinA1依存性軸索伸長作用を証明するために、Sema3Cなど各セマフォリン分泌性細胞株を作製し、胎生15.5日齢の野生型とPlexinA1欠損帯状回外移植片との共培養を行い軸索伸長の解析を行っている。予備的な実験では、Sema3Cの軸索誘引活性がPlexinA1欠損帯状回外移植片で減弱することを示唆する結果が得られたが、正確な結果を得るために、あと数回の実験を繰り返す必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
1. 平成28年度の課題:脳梁発達におけるセマフォリンと受容体の局在マップを最初に完成させる。この局在マップをもとに、胎生17.5日齢(E17.5)の野生型とPlexinA1欠損脳において、Npn1陽性軸索とPlexinA1、Sema3C等の軸索ガイダンス因子との位置的関係を明確化し正中線交差におけるPlexinA1の役割を解明する。さらに、帯状回へdiIを注入しPlexinA1欠損パイオニア軸索の伸長を追跡し野生型との比較を行う。そして、Sema3CのPlexinA1依存性軸索伸長作用の検討のため、帯状回外移植片の軸索伸長に及ぼすSema3C作用の解析を続ける。 2. 正中線道標形成におけるPlexinA1の役割:正中線道標の異常発達の有無検討のため、E17.5の野生型とPlexinA1欠損脳をグリア線維性タンパクやカルレチニン等の抗体で免疫組織化学を行い、各抗体陽性グリアおよびニューロン数の比較を行う。次に、道標内の介在ニューロンの比較のため、E17.5の野生型とPlexinA1欠損脳組織を抗GABA抗体で免疫組織化学を行い、脳梁形成予定領域におけるGABA陽性介在ニューロン数の比較を行う。さらにGAD67-GFP:PlexinA1欠損マウスでGFP陽性細胞数の比較を行う。そして、道標形成不全の脳梁完全欠損への寄与解明のため、野生型とPlexinA1欠損脳スライス培養の帯状回の交換移植を行い、正中線を越えず異常投射する軸索の割合を比較する。 3. PlexinA1欠損マウスの自発運動亢進、プレパルス抑制減弱等の行動異常と脳梁欠損との関連:研究計画調書の目的で脳梁形成異常の合併が多い精神疾患の病因解明への発展の可能性にふれたが、具体的な研究計画の記載は無かった。各行動異常と脳梁欠損との関連解明のため、行動解析後の成体マウスの脳組織を解析し脳梁の有無について確認を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の見積額より実際の購入額が安価で済んだため残高が発生し、次年度使用額が生じました。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度の平成29年度分として請求した助成金に、この次年度使用額を合わせて研究計画の遂行に必要な物品の購入に有効に活用していく所存です。
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