研究課題
【研究の目的】大脳皮質は多種多様な神経細胞からなり、これらは全て発生期の神経幹細胞から生み出されるが、皮質表面積の拡大を可能にする神経系幹細胞の系譜が如何なる分子機構によって調節されるのかは不明である。近年、霊長類などの大脳皮質組織では、「脳室面分裂細胞」である神経幹細胞に対して、「非脳室面分裂細胞」の割合が顕著に増加することが明らかになっており、「非脳室面分裂細胞」の発生を制御する分子機構、「脳室面分裂細胞」と「非脳室面分裂細胞」を区別する生理的意義に注目が集まっている。本研究課題では、これらの多様な幹細胞(前駆細胞)の制御機構に迫るために、神経発生と血管発生の相互依存的な役割に着目している。血管は、組織細部にわたり養分や酸素を運搬する極めて重要な器官の一つであり、近年、血管の酸素養分の運搬路という基本的な機能に加えて、血管によって構築される微小環境 (niche)の概念が提唱されており、幹細胞を支持する生物学的適所としての血管の役割に注目が集まっている。【研究の成果】研究実施計画に沿って、①HIF-1αの発現変化を、ターゲット因子であるVEGF(血管内皮成長因子)の発現と共に詳細に観察したところ、神経幹細胞の周辺でHIF-1αの発現が有意に高いことを見出した。そこで、②HIF-1α-flox;Nestin-CreERT2コンディショナルノックアウトマウスを作製し、神経幹細胞におけるHIF-1αの役割を解析したところ、HIF-1αを失うと、脳室面分裂細胞が有意に減少することを明らかにした。実際、HIF-1αの発現亢進は、脳室面分裂細胞で顕著に発現するHes1の発現を促す一方で、非脳室面分裂細胞で発現するTbr2の発現が抑制されることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定どおり、発生期の大脳皮質において、①脳室面分裂細胞が位置する領域と非脳室面分裂細胞が位置する領域では、低酸素特異的な転写因子、および、その下流分子の発現が異なることが見出された。また、②この低酸素環境の相違は、脳室面分裂細胞から非脳室面分裂細胞への推移と密接にかかわることが、ノックアウトマウスの解析から確認された。これらの知見は、本研究提案が当初目標としていた内容であることから、当初の予定どおり順調に計画が進展していると考えられる。
これまでの研究から、大脳皮質では、神経系の幹細胞(前駆細胞)と血管が密接な関連性を保ちながら発生することが見出されている。特に、非脳室面分裂細胞の中でも、中間型幹細胞は周皮細胞と、オリゴデンドロサイト前駆細胞は内皮細胞と高頻度で物理的に接触することが明らかになっている。そこで、①この中間型幹細胞と周皮細胞の接触を介在する分子、②オリゴデンドロサイト前駆細胞と内皮細胞の接触を介在する分子の同定を試みる。具体的には、両者の共培養系を確立した上で、質量分析やRNA次世代シーケンシングにより網羅的に解析を行う。さらには、③中間型幹細胞と周皮細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞と内皮細胞が物理的に接触する生理的な意義を明確化する。以上により、脳室面分裂細胞と非脳室面分裂細胞が、何故、周囲の血管と密接な連携を必要とするのかを解明することで、神経幹細胞の分化制御機構明確化することを目指す。
次年度に行う実験計画に使用したいと考えたため、本年度繰り越し分と翌年度分の助成金の合わせた額を使用する予定である。
次年度に繰り越した額を、人件費(研究補助者への謝礼)に充てる計画である。
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Development
巻: 144 ページ: 385-399
10.1242/dev.136382
Scientific Reports
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