研究課題/領域番号 |
16K08479
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
水谷 健一 神戸学院大学, 薬学研究科, 特命教授 (40469929)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大脳皮質の発生 / 血管 / 微小環境 / 幹細胞 / 前駆細胞 |
研究実績の概要 |
【研究の目的】大脳皮質は多種多様な神経細胞からなり、これらは全て発生期の神経幹細胞から生み出されるが、皮質表面積の拡大を可能にする神経系幹細胞の系譜が如何なる分子機構によって調節されるのかは不明である。近年、霊長類などの大脳皮質組織では、「脳室面分裂細胞」である神経幹細胞に対して、「非脳室面分裂細胞」の割合が顕著に増加することが明らかになっており、「非脳室面分裂細胞」の発生を制御する分子機構、「脳室面分裂細胞」と「非脳室面分裂細胞」を区別する生理的意義に注目が集まっている。本研究課題では、これらの多様な幹細胞(前駆細胞)の制御機構に迫るために、神経発生と血管発生の相互依存的な役割に着目している。血管は、組織細部にわたり養分や酸素を運搬する極めて重要な器官の一つであり、近年、血管の酸素養分の運搬路という基本的な機能に加えて、血管によって構築される微小環境 (niche)の概念が提唱されており、幹細胞を支持する生物学的適所としての血管の役割に注目が集まっている。
【研究の成果】研究実施計画に沿って、神経系の幹細胞(前駆細胞)と血管が密接な関連性を解析したところ、①非脳室面分裂細胞の中でも、中間型幹細胞は周皮細胞と、オリゴデンドロサイト前駆細胞は内皮細胞と高頻度で物理的に接触することが明らかになった。そこで、②中間型幹細胞と周皮細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞と内皮細胞を、培養系で物理的に接触させたところ、いずれにおいても、神経ー血管系の接触は分化抑制に寄与していることが明らかとなった。さらには、③in vivoでは、胎齢中期では血管系と非脳室面分裂細胞の接触が顕著であるが、胎齢後期に入ると、一斉に分化が促されることから、これらの結果から、非脳室面分裂細胞と血管系の接触は、神経系細胞の分化調節に重要な役割を果たす可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり、発生期の大脳皮質において、①脳室面分裂細胞が位置する領域と非脳室面分裂細胞が位置する領域では、低酸素特異的な転写因子、および、その下流分子の発現が異なることが見出された。また、②この低酸素環境の相違は、脳室面分裂細胞から非脳室面分裂細胞への推移と密接にかかわることが、ノックアウトマウスの解析から確認された。さらには、③むしろ酸素濃度が高い環境にある非脳室面では低酸素依存的なシグナルではなく血管近傍の微小環境が形成され、これが分化調節に重要な役割を果たす可能性が確認された。これらの知見は、本研究提案が当初目標としていた内容であることから、当初の予定どおり順調に計画が進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、発生期の大脳皮質では、神経系の幹細胞(前駆細胞)と血管系が、密接な関連性を保ちながら発生を進行させることが見出されている。今後は、①如何にして脳室面分裂細胞に適した微小環境と非脳室面分裂細胞に適した微小環境が区別されて構築され、また、②これが、どのような分子機構によって制御され、延いては③大脳皮質の発生に寄与するのかを解明することで、神経幹細胞の分化制御機構としての血管由来の微小環境の生理的意義を明確化することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に行う実験計画に使用したいと考えたため、本年度繰り越し分と翌年度分の助成金の合わせた額を使用する予定である。
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