これまでの準備実験によって、大脳皮質の発生過程では、脳室帯の未分化な神経幹細胞(脳室面分裂細胞)は血管自体の進入は必要とせずに糸状仮足だけが接触して無血管領域の低酸素環境に曝された場に位置する一方で、脳室下帯や中間帯にいる分化能力が制限された中間型幹細胞は血管網の分岐点に接して血管と極めて隣接した場に位置することが見出された。このような背景から、本研究提案では、なぜ、神経系幹細胞(前駆細胞)は、血管と密接な関連性を持って発生を進める必要があるのか?また、この神経―血管相互依存性はどういった分子機構によって調節されているのか?を解明することを研究の目的とした。まず、「脳室面」と「非脳室面」前駆細胞で区別して用いられる血管ニッチの分子機構を明確化するために、①「脳室面分裂細胞」が無血管領域に位置して低酸素環境に曝される結果、ここではVEGFの発現が顕著で、tip細胞が脳室面の方向へ発達するにも係らず、この領域には血管が進入できないという、tip細胞(血管先端細胞)のnon-canonicalな生理的意義の分子機構を解析した。その結果、未分化型の神経前駆細胞はtip細胞と接触することで、stemnessを高めていることが明らかとなり、これは神経前駆細胞が対称分裂で自己複製が盛んな時期に顕著な現象であることが明らかとなった。一方、②「非脳室面分裂細胞」と血管の関連性を詳細に解析した結果、中間型前駆細胞は毛細血管を取り巻く周皮細胞と優先的に接触するのに対して、オリゴデンドロサイト前駆細胞は内皮細胞と優先的に接触するといった特徴があることが見出された。以上の現象は、異なる性質を持った神経前駆細胞が個々の血管由来の微小環境を利用して、増殖分化を調節することを示唆するものであり、神経と血管の協調的な発生制御機構が大脳皮質の正常発生に重要な役割を果たす可能性が見出された。
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