研究課題
パーキンソン病は難治性の神経疾患であり、その発症機序の解明は急務である。この疾患は大脳基底核における神経活動の変化によるものと考えられているが、脳のどの部位のどのような活動の変化が病態と関連しているのかは必ずしも明らかになっていない。そこで、パーキンソン病モデル動物などに対して、in vivo および in vitro イメージングによる神経活動のマルチスケール解析に加えて、病態の重篤度を行動学的に定量化する。このようなマルチスケール・マルチディメンジョンの実験で得られた結果を統合的に解析することにより、病態と脳の領野ごとの神経活動及び神経回路の異常との関係を明らかにすることを目的として研究を行った。平成 29 年度は、平成 28 年度に得られた研究結果をより詳細に検討するために、まず、qAIM-MRI を用いた神経活動計測法をより確固たるものにするために、脳内マンガン (Mn2+) 動態の計測を行い、その結果から撮影タイミングを検討し、神経活動と相関する Mn2+ 濃度を定量化するためにより適した撮影パラメーターの検討を行った。また、パーキンソン病と同様の運動症状を呈するとの報告がある D1 ドーパミン受容体 (D1 受容体) コンディショナルノックダウンマウスに対して、種々の行動実験と定量的活動依存性マンガン造影 MRI (qAIM-MRI) による全脳神経活動計測を行った。行動実験では、健常時に比べ、ビームウォークテスト及びカタレプシーテストで明らかな異常がみられた。また、qAIM-MRI による神経活動計測結果でも、健常時に比べて神経活動が変化した領域が複数見出された。現在、行動実験の結果と神経活動の変化との相関解析を行い、D1 受容体の機能の解明を試みているところである。
1: 当初の計画以上に進展している
実験計画に挙げた、「パーキンソン病による神経活動変化の qAIM-MRI による検討」については、MnCl2 投与後の脳内の Mn2+ 動態を計測することにより、最適な撮影タイミングの検討、撮影パラメーターの検討を行い、汎用的な脳神経活動計測法としての qAIM-MRI 法の確立を進めている。また、様々なモデル動物に対して qAIM-MRI による全脳神経活動計測を行い、それぞれ異なる神経活動の変化を見出している。「行動学実験、生化学実験による病態の定量化」に関しては、ローターロッドテスト、ビームウォークテスト、カタレプシーテスト、ポールテストなど様々な行動実験手技を確立し、D1 受容体コンディショナルノックダウンマウスに適用することにより、D1 受容体の発現量低下による様々な表現型を見出している。「細胞の活動変化と機能的ネットワーク構造変化の解明 (in vitro Ca2+ イメージング)」に関しては、様々な標本での多細胞 Ca2+ イメージングの技術を確立し、イメージングデータ解析の自動化にも着手している。なお、幼弱期以外のマウスの脳スライス標本にカルシウム感受性蛍光色素を導入することが困難であるため、現在、カルシウム感受性蛍光タンパク質を細胞種特異的に発現する遺伝子組換えラット・マウスの系の確立を進めており、平成 30 年度にスライス実験を行う予定である。なお、新しい Ca2+ イメージングの試みとして、研究代表者が企業と共同で開発を進めている「極微細蛍光内視鏡イメージングシステム」を用いた、in vivo 脳深部カルシウムイメージング法の開発に着手し、成果を挙げつつある。以上の進捗状況から、研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
パーキンソン病による神経活動変化の qAIM-MRI による検討:平成 29 年度に行った、qAIM-MRI による全脳神経活動計測法を確立するための実験条件の最適化をさらに進める。さらに、平成 29 年度に引き続き D1 受容体コンディショナルノックダウンマウスでの解析を行うと共に、平成 29 年度は休止していた MPTP 投与によるパーキンソン病モデル動物の解析も行い、ドーパミン受容体発現量の低下及びドーパミン量の低下による神経活動の変化の違いを検討し、パーキンソン病発症機序の解明を目指す。行動学実験、生化学実験による病態の定量化:平成 29 年度に行った行動実験を継続するとともに、MPTP 投与マウスでの生化学実験も行うことにより、行動学的、生化学的な病態の定量化を目指す。細胞の活動変化と機能的ネットワーク構造変化の解明 (in vitro Ca2+ イメージング):細胞種時的にカルシウム感受性蛍光タンパク質を発現するラット・マウスの系統を確立し、モデル動物のスライス標本で多細胞 Ca2+ イメージングを行う。この結果を健常動物と比較することにより、パーキンソン病モデル動物あるいはパーキンソン病に関連した遺伝子操作などにより神経活動がどのように変化するのか解析する。この際、神経活動の細胞間同期解析を行うことにより、機能的ネットワーク構造を同定する。この機能的ネットワーク構造がパーキンソン病モデル動物などでどう変化するのかを明らかにする。以上の研究を統合的に解析することにより、パーキンソン病発症機序の解明を目指す。
(理由)実験に使用する消耗品類の購入費用が見積もりよりも安価に済んだため、残額が生じた。(使用計画)平成 29 年度の余剰分は、研究成果を広く発信する目的で、成果発表費用に使用する予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
Neuropharmacology
巻: 131 ページ: 291~303
10.1016/j.neuropharm.2017.12.037
ACS Applied Materials & Interfaces
巻: 9 ページ: 42444~42458
10.1021/acsami.7b03979
平成 29 年 電気学会 電子・情報・システム部門大会 講演論文集
巻: - ページ: 203~208
巻: - ページ: 229~232
巻: - ページ: 1532~1533
SICE Symposium on Systems and Information 2017 システム・情報部門学術講演会 2017 講演論文集
巻: - ページ: 810~813
巻: - ページ: 814~815
巻: - ページ: 816~817
http://www.rii.med.tohoku.ac.jp/brain/index_osanai.html