研究課題
慢性腎臓病(CKD)では、尿毒症物質が体内に蓄積し代謝性アシドーシスや強い酸性尿が生じる。高食塩(Na負荷)は腎内酸化ストレスを増強し食塩感受性高血圧の悪化因子となる。また重炭酸NaをCKDモデル動物に投与すると、酸性尿が改善され→アルブミン尿による腎内酸化ストレスが減弱し、腎尿細管障害が軽減する。驚いたことに、どちらもNa負荷であるにも拘わらず前者は腎障害を後者は腎保護作用を認めた。そこで申請者は『重炭酸イオン等の経口アルカリ性化剤はCKD患者において代謝性アシドーシスや酸性尿を改善し、腎保護効果をもたらす』という仮説を立てた。本研究課題では、経口アルカリ性化剤がどの様に尿毒症物質等の代謝物を薬物的血液浄化し腎保護効果をもたらすか、血液と尿を網羅的・定量的にメタボローム解析し動物実験により病態生理学的に解明したい。本年度、経口アルカリ性化剤の重炭酸Naとクエン酸K/Naを標準治療群と比較する『慢性腎臓病における経口アルカリ性化剤による腎保護効果の検討(CKOALA研究)/臨床研究登録UMIN-ID;000010059』を研究実行中である。登録中であるが、患者の説明後同意の得られた匿名化サンプル(早朝尿と血漿, -80℃で保存)が70人分ある。それらについてfeasibility研究としてメタボローム解析を行った。ヒトの匿名化サンプルの二次利用解析を目的とした『慢性腎臓病における経口アルカリ性化剤による腎保護効果の検証に関する付随研究 1.尿中メタボローム解析・2.血中メタボローム解析』プロトコルを作成し、東北大学病院倫理員会から承諾を得た。早朝尿と血漿を試料として核磁気共鳴解析と質量分析解析(LC-MS/MS・GC-MS/MS)を行った。LC-MS/MSにより尿毒症物質を定量的に解析した。アルカリ性化剤が尿毒症物質を尿中排泄増加させ血中濃度を減少させる現象を実証したい。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、経口アルカリ性化剤のクエン酸K/Na及び重炭酸Naの内服が尿毒症物質を尿中排泄促進する可能性を検証すべく、匿名済サンプル(早朝尿と血漿)を用い、インドキシル硫酸・pクレジル硫酸・フェニルアセチルLグルタミン・馬尿酸・アルギニノコハク酸について定量的メタボローム解析(LC-MS/MS)を行った。統計解析はMann-Whitney検定を行った。薬剤投与期間中の血漿の尿毒症物質濃度と早朝尿の投与開始時からの濃度変化を比較した。クエン酸K/Na投与群では、重炭酸Na投与群や標準治療群に比べ早朝尿中インドキシル硫酸濃度の増加が認められた。また標準治療群に比べ血漿インドキシル硫酸濃度の低下が認められた。クエン酸K/Naはインドキシル硫酸など一部の尿毒症物質を薬物的血液浄化する可能性が示唆された。
今後、以下について研究を継続する予定である。1.クエン酸K/Na及び重炭酸Naなど経口アルカリ性化剤による尿毒症物質の薬物的血液浄化について特許申請する。2.CKOALA研究の遂行。3.メタボローム解析で同定・定量された尿毒症物質や代謝物が臨床研究データとどのように相関するか多変量解析する。代謝性アシドーシス・酸性尿・尿毒症物質によるCKD進行機序を検証する。4.さらに上記で確認された尿毒症物質や代謝物の腎毒性について動物実験で検証する。
今年度はまだ登録が終わってないため、全サンプルについて尿毒症物質を質量分析測定できなかった。そのため質量分析機用カラム1本分をまだ購入しなかったため。
来年度以降、質量分析・アッセイのために使用する予定。
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腎・高血圧の最新治療
巻: 5 ページ: 193~203