昨年度までに、二瓶選択嗜好実験、リック解析実験、カルシウムイメージング実験を用いて、Ⅲ型味細胞に発現し、transient receptor potential 非選択性カチオンファミリーに属するpolycystic kidney disease 2-like 1 (PKD2L1) が、キニーネによる苦味受容機構に寄与することを明らかにしてきた。そこで本年度は、野生型マウスあるいはPKD2L1ノックアウトマウスから単離した味細胞にパッチクランプホールセル記録法を適用し、キニーネ処理による電流応答の検出を試みた。しかし蛍光顕微鏡下でIII型味細胞が細胞同定に必要な蛍光強度を示さなかったことから、現在も細胞単離の技術改良を進めており、近く電流測定が可能になるものと考えている。一方、これまでにPKD2L1過剰発現細胞を用いたパッチクランプ実験や二瓶選択嗜好実験において、他の苦味物質であるデナトニウムはPKD2L1に作用しないことを見出していることから、単離Ⅲ型味細胞を用いたカルシウムイメージング実験やリック解析実験におけるデナトニウムの効果についても検討した。カルシウムイメージングにおいて、野生型マウスあるいはPKD2L1ノックアウトマウスから単離したⅢ型味細胞のどちらにおいても、デナトニウムによるカルシウム応答が観測されなかった。またリック解析実験においても、野生型マウスとPKD2L1ノックアウトマウスの両方がデナトニウムを忌避した。これらの結果からもデナトニウムの苦味応答にPKD2L1は関与しないと考えられる。本研究結果から、PKD2L1がデナトニウムではなく、キニーネによる苦味受容機構に関与することが示唆された。
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