樹状突起は神経細胞における計算過程の中心的な役割を担うが、その形態や電気的特性あるいはシナプス分布と生体機能発現との関係は明確でないのが現状である。本研究では、左右の音入力の同時検出器として働くことで両耳間時差(ITD)検出を行うトリ層状核(NL)神経細胞を対象に、ITD検出における樹状突起特性の機能的意義を明らかにすることを目的とする。これまでに、長い樹状突起を持つ低周波数領域の細胞では、興奮性シナプス入力が主に樹状突起遠位部の細い分枝に集中することで、大きく減衰して細胞体に届くことを明らかにしてきた。今回、グルタミン酸アンケージングにおいてレーザー刺激強度を段階的に変化させたところ、遠位を刺激した場合は入力強度が増加しても細胞体に届く電位はあまり増加しないことから、遠位での減衰は入力強度依存的であることが示唆された。チャネル阻害剤を用いた実験から、この過程にはカリウムチャネルの活性化が関わることが分かった。シミュレーションを用いて詳細なメカニズムを検討したところ、シナプス入力が引き起こす局所樹状突起での脱分極によって、入力強度に依存した減衰が起こること、これには脱分極によるカリウム電流の増加とシナプス電流の減少が関与することが分かった。さらにこのような樹状突起局所における非線形的な減衰がITD検出にどのような効果を持つのかを、同様のシミュレーションで検討した。その結果、樹状突起遠位部においてシナプス入力の非線形的な減衰が起こることによって、NL細胞でのITD応答性が幅広い音圧に対して維持されることが明らかとなった。
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