研究課題
脳は虚血状態に非常に弱いことから、低酸素状態を素早く感知し虚血状態を打破するための応答が必要である。しかし、生体内における酸素分圧感知・応答は、頸動脈小体を中心に進められてきており、脳内における局所的な酸素分圧の感知・応答機構はまだ分かっていない。本研究では、酸素センサーとして酸素感受性TRPチャネルを中心に、アストロサイトにおける低酸素応答機構の解明を目指す。このため、酸素センサー分子の同定、低酸素刺激によるグリオトランスミッター放出機構、低酸素刺激による脳血流制御機構、低酸素応答における遺伝子発現機構の4つの課題について研究を進める。今年度は、マウスの大脳皮質から単離したアストロサイトにおいて、TRPA1が酸素センサーとして機能しているかを検証した。低酸素刺激を行うと細胞内Ca2+イメージング法において細胞内Ca2+濃度上昇が確認され、さらにこれはTRPA1の特異的な阻害剤であるAP-18により阻害されたことから、大脳皮質由来アストロサイトには機能的なTRPA1が発現していることが確認出来た。また、TRPA1遺伝子を欠損させたTRPA1ノックアウトマウスから単離したアストロサイトでは、酸素刺激に伴う細胞内Ca2+濃度上昇は、野生型に比べて半分なっていた。このことから、大脳皮質由来アストロサイトでTRPA1は酸素センサーとして機能しているが、TRPA1ノックアウトマウスでは他の補償的な低酸素感知機構が働いている可能性が示唆された。さらに、大脳皮質から単離したアストロサイトにおいて低酸素刺激によりATPを放出することが確認され、このATP放出はAP-18処置したアストロサイトもしくはTRPA1ノックアウトマウス由来アストロサイトでは確認されなかった。以上のことより、大脳皮質由来アストロサイトにおいて、TRPA1が酸素センサーとして機能していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
4つの研究課題の内「酸素センサー分子の同定」と「低酸素刺激によるグリオトランスミッター放出機構」について解明した。
残り2つの研究課題、低酸素刺激による脳血流制御機構、低酸素応答における遺伝子発現機構について、順次研究を進めていく。さらに、TRPA1の酸素感知機構について、詳細な分子機構の解明も目指す。
所属機関の異動に伴い、1か月ほど研究が出来なかったため
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