不整脈の発生と維持には様々な因子が介在する。心房細動の発症には肺静脈心筋の自動能が関わり、その維持には心房筋の線維化と電気的性質の変性が関与する。本研究ではmicroRNA30d (miR-30d)のカリウムチャネルへの転写後制御がそのリモデリングの背景に位置することを明らかにした。このmiR-30dの発現増加には心筋細胞内のカルシウム(Ca)過負荷が原因であることも明らかにした。心房細動が持続すると頻拍によって細胞内Ca過負荷が生じ、一方ではKAChチャネルの発現を促進すると共に、もう一方ではmiR-30dの発現増加を介してKACチャネル の発現を低下させるという機序が作用しているのである。心房細動の持続は心筋のCa過負荷によるCa心毒性を軽減するために活動電位持続時間を短縮させるが,その結果として不応期が短縮し、却って心房細動が持続するという負のスパイラルに陥ってしまった結果であると考えられる。その中心となるものが細胞内Caに起因するmiR-30であることを我々は明らかにした。加えて、本研究ではこのCa2+過負荷がいかにして転写後経路を経て心房筋のリモデリングに関わるかについてその分子機序を明らかにした。その結果、細胞内Ca2+過負荷はCa2+依存性protein kinase C の活性化を惹起し、同時にcalcineurin-NFAT系と独立してmiR-30dを制御するという新機序を発見した。miR-30d過剰発現(miR-30d Tg)ラットの作成に成功したが、同ラットのfounder(F0)の雌1匹の作成に成功したのみであり、以後は連続して胎生死の連続であり、残念ながら、in vivo での本結果の検証には至らなかった。
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